【百合短編】カワイイ幼馴染を揶揄ってたら襲われた話と、気になる幼馴染に揶揄われたので襲った話
神山フブキ
A-side
私には、超弩級可愛い幼馴染がいる。
それはもう、目に入れても痛くないレベルというか、何なら目に入れたいよねって感じ。そんな我が竹馬の友、凛の特徴は以下の通りだ。
黒髪ショート、少し低い身長、愛嬌はなくとも滲み出る可愛い雰囲気。そして、それらを全て帳消しにするような反応の面白さ。愛でるか揶揄うか、究極の二択に迫られて、結局揶揄う。楽しいから。
今日も昼休み、午前中の疲労を癒すためにも、やる事は一つ。
「……ねえ凛、それ私にも飲ませて」
「ゲフッ!ゴホゴホッ、、、……あ゛ぁぁ、喉がぁっ!」
「ごめん落ち着いて、凛」
「喉がぁっ!焼け死ぬっ!」
「それ麦茶だよね?」
「……深雪にはコンポタにみえるの?」
「見えないけど」
目の前、麦茶で喉を焼き切った人間が、私の幼馴染。神谷 凛である。
……今はこんなに咽せているが、普段の姿はとても可愛らしくてクラスで人気もある。が、幼馴染の目線で言わせてもらうと、結構残念な方。料理はかろうじてやってるのを見かけたことがあるが、洗濯や掃除は私の知らない境地。まあ、私が知らないってことは、やってないってことなんだろうけど。洗濯はともかく部屋の掃除はなんなんだ。いつも綺麗だけど。
……気を取り直して、呼吸を現在進行形で整えている凛に、改めて話しかける。
「ねえ凛、一口だけちょうだいってば」
「ひゃ!……い、いいよ」
「ありがと」
凛は何ていうか、スキンシップみたいな奴に過剰に反応する、端的に照れ屋だ。今だって耳まで真っ赤にして、ぶつぶつとうわ言を漏らしている。
私は受け取った麦茶をぐいと傾けて一口飲み込み、凛に返す。
「ん」
「あ、うん……」
凛はそれを受け取り、少し飲み口を眺めた後、それに口をつけた。
……真っ赤な顔。女同士でそんな気にしなくて良いのに。そういうとこ、本当に……、
「……かわいい」
「……へ?」
あ、口に出た。
凛は鯉のように口をぱくぱくさせ、頭にはハテナマークが大量に浮かんでいる。
耳まで赤く染まっていく様子は眺めていて胸が満たされるように感じる。そして、私が凛をこうしたのだと思うと、かなり満足感という物が得られた。
と、ちょうど鐘の音が聞こえた。確か次の授業は理科室だったか。塩酸とかあんまり好きになれないんだよな。人が簡単に死にそう。まあ、そんなこと言っててもしょうがないし、さっさと行くか。
では、さようなら。凛。
「……へ?」
————————————————————
「……納得いかない」
「何、いきなり」
まだ蒼色の明るい下校道、凛が唐突に文句を呈してきた。どういう用件か、聞いてあげよう(上から)。
「いや、いつものことなんだけど……、でもこれが日常という現状に問題があるのか?」
「おーい、用件を言えー」
こちらに話しかけた上でよく分からない自問に陥った凛を見ながら、家へと歩みを進める。用件は気になるが、敢えて聞かない。この調子の凛をもう少し眺めてから、しっかり問いただすつもりだ。
「……ねえ深雪、聞いていい?」
「何」
どうやら凛の自問タイムは終わったようだ、なんて思いつつも、意外に真面目な表情で、胸を今にも突かれそうに感じる。
凛は口を開いて、その声を上げた。
「私の事、いつも揶揄ってるよね」
……。
「いや自明でしょ、今更何なのさ」
「やっぱりそうだよねぇ!」
こちらが言葉に詰まる勢いで、何を言い出すのかと思えば。そんな明々白々な事を持ち出して、一体どういうことなのか。当然でしょうに。
「あー、なんか納得いかない」
「揶揄われるのが悪い」
「そんな訳ないでしょ!」
凛がこちらを下から睨みつけて威嚇してくる。頬を少し膨らませ、不満の声を上げた。
「……それなら、いい。もう」
そんな様子を見ていると、急に風が顔に吹きつけた。
それは、次の季節への変化を予兆するような、冷たい風。三寒四温とはよく言ったものだが、季節の変わり目はいつも小さなことで気づく。思わず私は目を閉じ、風を瞼越しに感じる。
私は、目を開けた。
「……ねえ、深雪。決めたから」
何を……?、と口に出そうとした。
私は声が出せなかったらしかった。
靡く艶の良い黒色の髪、白い肌、淡い桃色の唇。それら全てを塗りつぶすかのような、茜色。
咄嗟に伏せた私の顔に、凛は手を添え、そちらに向けさせた。
「覚悟、しといてね」
……そんな凛の表情を、私は。
「……なんてね」
「……は?」
「もうさっさと帰ろうよー。今日はそっちの家で泊まるから」
今までの張り詰めた(気がする)空気が、一言で霧散した。急にいつもの凛に戻って、少し怒りを覚えそうにもなった。
「ねえ、ちょっと」
「はいはい、帰ろうねー」
凛はこちらを見ずに、手を引っ張ってきた。
抗議の声を出そうとして、止めるしかなかった。
……あんな表情が脳裏に浮かんで、消えてはくれない。あんな、あんな……。
……可憐さと獰猛さと妖艶さをミキサーでぐちゃぐちゃにしたような、表情。それに、私の胸の底を掴まれた気がした。
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