だけど、夢は夢で

 逃げるように家を去ったあと、どういう経緯かは覚えていないが、また電車の中にいた。

 思えば母は、さっきよりもヒドい言葉を言っていたような気がする。でも、塩を投げつけられた──自分が拒絶されたということがショック過ぎて、細かいことなんてどうでもよく思えた。


 家の中では堪えていた涙が、今になって溢れる。行きの時よりも人の多い電車だったが、そんなことは気にも留めず、泣いて、泣いた──。



 ここで、目が覚める。

 正確には、夢から逃げ出すため、自分の意思で目を開けた。

 頬には涙の跡が。三月というのに、ぐっしょりと汗をかいている。


 何でこんなに泣いているんだろう。

 何でこんなに悲しいのだろう──。


 人間の忘却力というのは、上手くできている。今まさに、自分の脳がさっきの嫌な記憶を消そうと躍起になっている。


 スマホの時計をみる。午前三時半。

 夜はまだ空けない。

 これ以上深く考えるのはやめた。今週末で、春休みは終わり。心置きなく寝れる、貴重な夜を無駄にしたくはない。


 布団をかけ直し、目を閉じてみる。

 いい夢をみようと、直近の楽しかったことを思い出すが、夢の世界には入れない。

 頭を支配するのは、いつもより速い、心臓の音──。


 はぁ、今日はもう、寝れそうにないな。


 私はひとまず、冷たい水を求めて、ベッドから起き上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三月のベッドと、それを囲む潜在意識 竜見千晴 @tsumi-chiha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ