3日目 コツコツ
なんてことのない話である。
これは友人から聞いた話である。仮にKとする。
Kは絶対に受かると言われていた第一志望の大学に落ち、第二志望の大学に受かったものの、第一志望の大学以外に行きたくないという理由で浪人したのである。
そのような経緯のゆえ、第二志望に受かっていたというプライドが邪魔をして同じ予備校の生徒とうまく馴染めず、高校時代の友人たちもそれぞれの学校生活で忙しく会うこともできず、だんだん孤独を感じ勉強に手がつかなくなっていった。
そんなKは受験におけるライバルを想像上に作りだした。Kはそのライバルがいつも自習室にいると想像し、自分と同じように孤独を感じているが、互いの存在を知っており、顔を合わせずとも応援しあっているということ想像することで孤独感を紛らわしていたのだ。
ある日、彼がいつものように夜遅くまで自習室で勉強していた時の話だ。
遠くの方でペンがコツコツと机を叩く音を聞きながら、自分も自習室で後一時間だけ頑張ろうと思っていた時。遠く離れた席の方から、
「この問題難しいよね。」
と、喋っている声が聞こえた。自習室で喋る不届きものだと思ったKはそのまま勉強を続けていたが、次は同じ列のあたりから、
「2023年の過去問解いた?」コツコツ
と、いう声が聞こえた。うるさいなと思い周りを見渡してみたところ、その日は年末だったため自習室で勉強しているのはKだけであった。
想像上のライバルをとうとう現実に持ち出し始めたかと自嘲しながら、再び勉強に取り掛かろうとすると、今度は部屋全体何十人もいるかのような声量で、
「今年こそは頑張ろうね」 コツコツ 「この問題むずすぎんだろ。」 コツコツ「この参考書ってわかりやすい?」 ゴツゴツ 「お前もここ受けんの!俺もなんだよ。」 ゴツゴツ 「頑張ろう」 コツコツ 「がんばろう」 コツコツ 「ガンバろう」ゴツゴツ 「ガンばロう」 「がんばろう」 「がん「頑張「が ゴツゴツ 「ガンバ「頑張ろ ゴツ 「頑「……」
ここでKは自習室を出ていった。
翌朝、自習室に行き、前日に自分が使っていた机を見てみると、自主室の机全てに鉛筆で何度も突き刺したかのような小さな穴がびっしりとたくさん掘られていた。何十人もの人が夜通し掘らないと不可能な量の穴であった。
K本人は受験のストレスでノイローゼ気味になっていたのだろう、今はもう大丈夫だというが、第一志望に合格し学校生活を楽しんでストレスがないはずのKは時々
「コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ………」
と何もないところに向かって楽しそうに喋りかけている。
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