18話:貴方のシナリオ

 しばらく絶叫する中村を小倉が宥め、ようやく話が出来る程度に落ち着かせてくれた。


「……私は中村トモミ、三年よ。このマルチ制作研究部の部長、企画運営担当」


 中村は手を組み、足を組み、社長椅子の自席でふんぞり返る。


「うーん? アンタどっかで見た記憶があるわね?」


 威圧感が凄くとても話しづらいが自己紹介をする。


「あーえっと……二年の松本カツヤです」

「松本カツヤ?」


 中村は眉間にシワを寄せながら俺を睨む。


「名前もどっかで聞いたことがあるわね……誰だったかしら?」


 中村は考え込む。

 隠そうかと考えたが、この人は隠し事がバレるともっと面倒くさい方向に進みそうな気がした。

 だから隠さずに言ってしまう。


「俺は竹人カオルの友人なので、それで知ってるのかと」

「ああ、カオルの幼なじみね」


 納得しつつ中村は更に続ける。


「どんな鈍感で主人公補正の掛かった男かと思ってたけど、ただのチャラ男じゃない……事実は小説よりもって言うの本当ね。ガッカリだわ」


 溜め息交じりに俺の感想を言われ若干イラッとしたが、構わず俺は自己紹介を続ける。


「あと……昨日神瀬さんと貴方が一緒に居た時に話しかけてきた男だ。覚えていないか?」


 その一言を言った瞬間、辺りに緊張が走った気がした。


「あ……」


 ワナワナとこちらを指さす中村。


「アンタあの時のナンパ男!? ここまで本当に何しに来たのよ!?」


 案の定怒鳴り出す中村に、俺は空かさず鞄からオレンジジュースを取り出し彼女の机の上へ置いて差し出す。


「ナンパでは無い。ちゃんとした用事がありました。しかしこちらに事情があったとはいえ先日はいきなり呼び止めてしまいすみませんでした!」


 ジュースを置いて深々と頭を下げる俺。

「ちょ、ちょっと! これでアタシを買収しようってこと!?」

「これも良かったらどうぞ! 本当にお詫びなんで!」


 更に売っていたシュークリームを出す。


「だ、だから……こんなんで許すなんて――」

「なんならもう一個あるのでどうぞ! 本当に気持ちなので!」


 更に自分用でも買っておいたシュークリームも差し出す。

 オレンジジュースとシュークリーム二個が並べられ、しばらく沈黙が流れるが……


「ま、まあそうね。アタシって言うよりアンタはフウリに謝るべきね。これは有り難くもらっておくわよ。喉も渇いてたし」


 と、遠慮無くペットボトルの蓋を開ける中村に俺は安堵した。

 事前にカオルから中村がオレンジジュースとシュークリームが好きである事を聞いておいて良かった……

 カオルには本当に感謝しかない。

 何とか山場を乗り切った所で、


「トモちゃん先輩……このDQNな見たい目の先輩にさっきゲームのテストプレイをして感想をもらったっす」

「おおおおおおい!」


 小倉の口を塞ぎ後ろに下がり小声で叱る。


「お前、何いらんことを言っているんだ! 今良い感じに話がまとまったんだぞ!」

「お願いしたっすよね! DQN先輩の意見が今この部活には必要なんっす!」


 小声で口論をしていると、


「アンタ……テストプレイしたの?」


 中村に当然聞かれる。


「いやあのえっと……」

「やったっす! 冒頭のシナリオを10分かけてじっくり丁寧に読んでもらったっす!」

「お前にそれ以上は止めろ!」

「感想はうぼぼぼ!?」


 もう一度無理矢理小倉の口を塞ぐ。

 だが、中村が止まらなかった。


「へーそう……読んだんだ……」


 大人びた威圧的雰囲気から急にもじもじと指をイジり始める彼女。


「それで……どうだった?」


 恥ずかしそうに上目遣いで俺を見つめる先輩に、俺はもうこの話題から逃げられないのだと悟った。


「実はあれ、私が書いた奴なんだけど……どうだったの? 今回のシナリオは、ちょっとだけ自信があるんだけど……部員の奴ら、ちょっと意見をとしては弱くてさ。しっかりした評価がほしかったのよね……」


 チラチラ俺を見る中村。

 もうダメだ言おう。

 それにしっかりした意見なら、取り繕って言うことは俺には出来ない。

 俺は目を閉じ考える。

 あの面白くないストーリーは別に悪意で作った訳では無い。

 中村は良くしようときっと一生懸命考えて作ったものなんだ。

 彼女の為にも包み隠さず正々堂々彼女と向き合うべきなのだ。

 腹を括り、俺は開眼する。


「中村先輩! アンタのシナリオ! めっちゃつまらなかったよ!」

「むぎょおおおおおおおおおおおおおおお!」


 突如、中村は奇声を発しながら俺に襲い掛かってきた。

 俺は小倉と共に30分程部室を駆け回り逃げ惑うこととなった。

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