第二卷「水の向こうの真実」
カフェでの告白から数日が過ぎ、私たちはいつものように図書室で過ごしていた。けれども、悠真ちゃん――いや、今はそう呼ぶことに決めた――との関係は、以前とは少し違っていた。何かが変わったわけではない。けれど、何かが確かに変わっていた。
「ねえ、悠真ちゃん」
図書室の窓際で、私はそっと彼女の名前を呼んだ。彼女はいつものように本を読んでいたが、私の声に気づいて顔を上げた。
「ん? 何?」
彼女は柔らかく微笑んだ。その笑顔は相変わらず優しく、私の心を優しく包み込んだ。
「この前のこと、考えたんだけど……」
私は少し緊張しながら言った。彼女の表情が少し曇るのを見て、慌てて付け加えた。
「えっと、その……泳ぎに行こうって話。覚えてる? あのスイミングスクール」
彼女の顔がぱっと明るくなった。
「ああ、あれ! 覚えてるよ。行こうか」
「本当? 良かった! 実は私も、ずっと行きたかったんだ。悠真ちゃんと一緒になら、きっと楽しいと思うの」
私たちはその日の放課後、近くに新しくオープンしたスイミングスクールへ向かうことにした。駅前で待ち合わせをして、一緒に施設へと足を踏み入れた。
「わあ、すごくきれい……」
私は施設の中を見回しながら感嘆の声を上げた。白いタイルが煌めくプール、清潔感のあるロビー、そして爽やかな空気。まるで別世界のようだ。
「本当だね」
悠真ちゃんも頷きながら、少し緊張した様子で周囲を見回している。彼女の手は、自然と私の手を握ってきた。その温もりに、私は安心感を覚えた。
更衣室で水着に着替えると、私たちはプールへ向かった。悠真ちゃんは黒いワンピースタイプの水着を選び、私は青いタンクトップスタイルの水着を着用した。
「悠真ちゃん、その水着、似合うよ」
私は思わず言った。彼女の水着は、彼女の繊細な体のラインを美しく引き立てていた。
「ありがとう。ひなたのも、とても可愛いね」
彼女は優しく微笑んだ。その言葉に、私は少し照れながらも嬉しくなった。
プールに入ると、涼しくて気持ちの良い水が全身を包み込んだ。私たちはまずはゆっくりと泳ぎ始めた。水の中では、音が遠ざかり、静寂が広がる。私たちは並んで泳ぎながら、いろいろな話をした。
「悠真ちゃん、泳ぎ、得意なの?」
私は尋ねた。
「うん、小さい頃から習ってたから。でも、最近はあまり泳がなかったから、少し錆びついてるかも」
「そうなの? でも、とても上手だよ。私なんて、まだまだだけど」
私は笑って言った。実際、私は泳ぎが苦手で、プールに来るのも久しぶりだった。
私たちはしばらく泳いでいると、悠真ちゃんが少し離れた場所に行って、何かをしているのに気づいた。
「悠真ちゃん、何してるの?」
私は声をかけた。
「うん......実は、ちょっとだけ、髪を束ね直したいと思って」
悠真ちゃんは、少し恥ずかしそうに言った。
私は、彼女の元に行くと、彼女の長い髪が、水に濡れて、少し乱れているのに気づいた。
「私、手伝ってあげようか?」
私は尋ねた。
「ありがとう。助かる」
悠真ちゃんは、微笑んで言った。
私は、彼女の髪を優しく束ね直してあげた。そのとき、私は彼女の首筋に、小さなホクロがあるのに気づいた。それは、カフェで見た彼女の耳の形と同じように、とても繊細で、美しかった。
「悠真ちゃん、このホクロ、知ってた?」
私は、少し興味を持って尋ねた。
「うん......。小さい頃からあるんだ。でも、あまり人に見せたことがないから、知らない人が多いと思う」
悠真ちゃんは、少し照れたように言った。
「私、知ってるよ。悠真ちゃんの、すべて」
私は、そう言って、彼女の手をギュッと握った。
悠真ちゃんは、少し驚いた表情を浮かべた後、優しく微笑んだ。
「ありがとう、ひなた。僕は、僕らしくいられて、本当に嬉しいよ」
その言葉を聞いて、私の胸はきゅっと締め付けられるような気がした。
私たちは、その後もしばらくプールで泳ぎ続けた。水の中で、私たちはいろいろなことを話し、笑い合った。そして、私は心の中で思った。
(悠真ちゃんは、本当に素敵な人だ。外見じゃなくて、中身の彼女が、私は本当に好きだ)
その日、私たちはスイミングスクールで、とても楽しい時間を過ごした。そして、私は知った。悠真ちゃんの中にある、強さと優しさ。それは、外見ではなく、心から滲み出ているものだった。
「悠真ちゃん、また一緒に泳ごうね」
私は、心の中でそう思いながら、彼女の手をギュッと握った。
プールを出て、シャワーを浴びていると、悠真ちゃんが少し困った表情を浮かべながら私に話しかけてきた。
「ひなた、実は……」
「ん? 何?」
「シャワー室が、女子用が混んでて……。僕、男子用の方に行ってもいいかな?」
「え? でも、悠真ちゃんは……」
私は少し困った。けれども、彼女の困っている表情を見て、すぐに頷いた。
「うん、大丈夫。私はここで待ってるから」
「ありがとう。じゃあ、すぐ戻るね」
悠真ちゃんは、少し申し訳なさそうに微笑んで、男子用シャワー室の方へと向かった。
私はシャワーを浴びながら、彼女のことを考えていた。彼女は、いつも自分のことを隠そうとしない。でも、時々、こんな風に小さな困難に直面することがある。それでも、彼女はいつも真っ直ぐで、自分らしく生きようとしている。
(悠真ちゃんは、本当に強い人だ。そして、その強さの中にある優しさが、私はとても好きだ)
しばらくして、悠真ちゃんが戻ってきた。彼女の髪は少し濡れたままで、顔には爽やかな表情が浮かんでいた。
「ごめん、待たせたね」
「ううん、大丈夫。悠真ちゃん、無事だった?」
「うん、何とかね。ありがとう」
彼女は微笑んで言った。その微笑みに、私は心からの安堵を感じた。
私たちは更衣室で着替えを終え、スイミングスクールを後にした。外はもう夕暮れ時で、空はオレンジ色に染まっていた。
「今日は、本当に楽しかったね」
帰り道、私はそう言った。
「うん、僕も。ひなたと一緒にいられて、本当に嬉しかった」
悠真ちゃんは、優しく微笑んだ。その微笑みに、私は胸がきゅっと締め付けられるような気がした。
「また、一緒に来ようね。次は、もっと長く泳ごう」
「うん、約束だね」
私たちは手を繋ぎながら、帰路についた。夕暮れの中、二人の影が長く伸びていた。その影は、まるで未来を示しているようで、私は心から幸せを感じていた。
(悠真ちゃんと一緒にいられるこの時間が、私は本当に大好きだ。これからも、ずっと一緒にいよう)
私は、心の中でそう思いながら、彼女の手をギュッと握った。
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