第5話

1週間経った彼女はと言うと、ヤクザだけでなくチーマーやマフィアなど色んな裏の住人相手に無双を続けていた。

無双する理由なんて当然、資金調達以外はない。

一部の組織を除き殆どの組織は全身麻痺や半身麻痺になる人体破壊をされ、軒並み組織運営や裏稼業の継続が不可能となった。

つまり主人公達がヒロインと絆を深める為のイベントであるトラブル舞台装置が全く機能しなくなったと言う事である。

これは作者にとっては完全なイレギュラーな訳だが果たして軌道修正が叶うのか?


「あっれー? またキミが来たんだぁ?

アタシに何度も挑むとか物好きだねぇ?」


「なっ!? 俺ぁオメーに惚れてんじゃねぇ! 舎弟の敵討ちだっつーの!

なんだよ、お前ら笑ってんじゃねーよ!」


(あちゃーこっちのパターンのラブコメもあったかぁ〜。流石ラブコメ世界のキャラ。

どのモブももれなく青春恋愛脳持ちとかヤベェやーつ)


彼等には恐らく理解出来ないであろう分析を軽く思考していると、手の甲の紋章が次の栞に跳べるようになった事を知らせてきた。

どうやらようやくこの世界とはお別れの時間のようだ。

いつでも食料調達出来るよう栞として記録ストックはしておいたので、心置きなく次の世界に跳べると言うもの。

ならば何か演出しながら消えようかと彼女は動き始める。


「あららタ〜イムアウトだね〜。どうやらキミはアタシにすっごい惚れてくれてたみたいだけど、アタシはキミに惚れる事は無かったみたいだねぇ?

でもざ〜んねん! アタシはそろそろ旅立つから気持ちが変わるまで相手してあげらんないだ〜」


「だから! オメーに惚れてんじゃねぇっつーてんだろうが!

…行っちまうのかよ。俺ぁ最後までオメーに勝てねーままか……」


「んーキミ面白かったし少し気に入ったからアタシの名前教えてあげようっ♪

アタシの名はキリコ。…ここからアタシが居なくなっても記憶に残っていたらいつかまた再会出来る可能性あるかも、ね?」


「キリコ、か。この俺様が忘れる訳ねーだろ!

また会った時こそ俺が勝ってみせるからな!?」


「フフン、出来るもんならやってみなぁ〜ってね!

それじゃ、ね〜。キミとのやり取りはキライじゃなかったよ♪」


「んなっ!? ば、ばばバッキャロー!」


「アッハハハハ♪」


穏やかにそんなやり取りが終わると同時に手の甲の紋章から目に優しい範囲での眩しい光が彼女を包み込み、彼女の姿はどんどん透けて消えていく。

まさかそんな消え方とは思わなかった兄貴分は、弄られて顔真っ赤だったのが真っ青になり慌てて近寄ろうと車椅子のタイヤを回す。

そんな彼に少し呆れた表情で彼女は彼の額を透けかけた指先でコツンと軽く叩く。


「おあっ!?」


「キミ無茶し過ぎ。仕方ないから完全にアタシが消える前に怪我を軽い打ち身レベルまで治してあげたよ。

ほんとキミはアタシの事好きなんだねぇ?

じゃ、今度こそバイバイ♪」


兄貴分の無茶な行動に少し絆されたのか回復の力を使ってあげたようだ。

急に折れて激痛のはずの手足から、その激痛が消えた事実に目を白黒させて混乱する兄貴分。

彼が混乱している間に彼女はサッサと姿を消して移動してしまう。


彼女が居なくなり静けさに空間が満たされると彼の面倒を見てくれているお目付け役が慌てて駆け寄る。


「坊ちゃん、ここに居るのはいけやせんぜ。

一旦戻りやしょう。

結局坊ちゃんを痛め付けた奴ぁようですし」


「逃げ、た? いや、俺達の目の前で消えたじゃねぇか!?」


「何言ってるんです? 女って事以外は正体不明じゃねーですか。

さ、坊ちゃんは疲れてんでしょ。1度休んで頭整理したらいいですぜ」


「そんな…馬鹿な……」


周りの反応の変化に一度は混乱するも彼女のある言葉が頭に浮かぶ。

『記憶に残っていたら』

彼はその言葉からもしやと変化の原因を薄ら察する。まさか彼女が消えた瞬間に自分以外誰も彼女を記憶していないのでは?と。

その可能性に恐怖を覚えたがそれと同時に自分の胸の中から熱い思いも生まれた。


(俺しか覚えてねーんだろな。覚えていたら再会になるって事か。

忘れていたら初対面になるわなぁ?

俺ぁよ、諦め悪ぃから一生忘れてやんねーよ…キリコ。

この俺が生まれて初めてホンキで惚れちまった女なんだ、ぜってーに忘れてたまるか)


いつ訪れるか分からない再会を思いながら彼は静かに彼女を惚れさせる決意を固めた。






「そーいや栞世界にこの世界の栞を置いとくから今後は仲間が食料調達にガンガン来る予定なんだよね〜。

さらに掻き回される訳だけどあの世界、存在いつまで持つのかな〜?」

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BookWalker 〜渡り鳥達の綴る物語〜 桜羽灰斗 @Sawa-Haito

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