第3話 無邪気な笑顔

放課後の教室。

陽が傾き、窓際の机に差し込む光の中で、拓海はスケッチブックを開いていた。鉛筆の先で描かれていくのは、美咲の横顔。


彼女が笑うたびに、髪が揺れるたびに、どうしても描かずにはいられなかった。

けれど、それを誰にも見せることはできない。親友の健人にはなおさら。


ページをめくる指が止まり、拓海は小さく息を吐いた。

――この気持ちは、スケッチブックに閉じ込めるしかない。


その時、背後から声がした。

「おーい、まだ残ってたのかよ」

振り返ると健人が立っていた。笑顔の裏に、どこか期待をにじませながら。


「美咲さ、今日一緒に帰ろうって言ってたんだ。ラッキーだよな」

健人は無邪気に笑った。


その笑顔がまぶしくて、拓海の胸はきゅっと締めつけられる。

喉の奥に言葉がつかえて、結局出てきたのは短い返事だけだった。


「……そうか」


笑顔を作りながら答え、拓海はスケッチブックを静かに閉じた。

鉛筆の先に残った想いは、誰にも知られることはないまま、夕日の中に沈んでいった。

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