ペンは語る

@Nqo0406

ペンは語る

○卯月

僕はペン。店先に並んでいる、少し値段の高い、ただの多機能ペンです。シャーペンと、赤と青の三色のスタンダードのペンですから、使いやすくて、自分でいうのもなんですけど、人気があります。さっきも僕の前のペンが買っていかれました。それから少したって、ある青年が僕の前で停まりました。いかにも野球をやっていそうな坊主頭に、がっしりとした体つき。その手にはノート、付箋、新しい筆箱が握られています。そして近くの書店で買ったであろうたくさんの本たちが入った袋も強く握られていました。幾度か僕の前を通っては違うコーナーへ行き、また戻ってくる繰り返した後、僕のパッケージを手に取りました。

「1980円になります。」

僕はノートとかといっしょに袋に入れられて、持って帰られました。

 僕は袋に入れられたまま、机の上に置かれ、いくばくかの時間が過ぎた後、そこから出されて、パッケージも外され、いつでも書ける状態になりました。僕が待っていた時間は着替えに時間だったのでしょうか。さっきの服とは違い、名前が刻まれた、動きやすそうな服を着ていました。小川。なるほど、僕を買ってくれた人の名前か。よろしく、小川君。

 早速、僕を握って紙に大きく何かを書き始めました。『K大学合格』。僕は人間界の仕組みだとかはあまりわかりません。店頭で僕たちを買いに来る人達しか見たことがないので。でも、制服を着ている人だとか、若い人が多かったので、なんとなく勉強をする人が大半だということは知っていました。小川君もその一人なのでしょう。がんばれ、小川君。そんなことを、さっそく勉強を開始している小川君を横目に、ぼんやりと思っていました。


〇文月

 4月から7月に至るまでの間、小川君は僕をたくさん使ってくれました。僕の側面についているロゴなんてとっくのとうに無くなっていて、塗装ももう剝げようか、という程には。

 今日はテストだったみたいです。でも、ここは学校ではないみたいです。外部での試験なのでしょう。僕はほかのシャーペンとともに机の上に出されたとき、なんとなくそう感じました。

「赤ペン、青ペンなどのボールペンの使用は控えてください。」

ありゃ。僕はお役御免というわけですか。なんで僕を使っちゃいけないのだろう。そんなことを思っている間に、真っ暗なバッグに、震えた手で放り込まれました。放り込むことはないだろう。物使いの荒い人だ。

「始めてください」

静寂を貫くその声が、バッグの中からでも、異様にはっきり聞こえました。


 家に帰ってきたみたいです。

「母さん、今日、飯いいや。帰ってるときコンビニで食ってきちゃった。」

あれ。僕と一緒に入っている財布を今日一度も取っていなかったような気がするのに。

 小川君はそそくさと階段を上り、部屋についたと思ったら、すぐに机の上に乱雑にバッグの中身を出し、僕を使って「〇」と「×」を書き始めました。今日受けてきたテストでしょう。そこに印刷してある問題の選択肢に〇がついてあったり、何やら文章が書いてあったりしました。

「〇、×、×、×、〇、×、…」

×が多いような気がしました。

「…〇、×、×、×。」

終わったみたいです。ずっと力強く握られていたので、あったかくはありましたが、じわっと冷たい手汗がにじんでいくのを感じました。小川君は、震えた手で、静かに僕を置き、電気を消して、今日はそのまま寝ました。


電気を消しただけとは思えないような、それはそれは真っ暗な視界でした。


〇霜月

もう、クリップもなくってしまって、頭についていた消しゴムも、すり減って無くなってしまいました。そのためか、もうシャーペンを普段使いしてくれなくなってしまいました。でも、外部から受けてくるような特別なテストの時の、〇つけ作業だけは丁寧にやってくれます。

今日もテストだったみたいです。階段を駆け上がってきて、電気をつけて、いつものように僕を持って、〇と×をつけ始めました。

「〇、〇、〇、×、○…。」

「…×、○、○、×、○、○。」

明らかに丸が多い。そう思っていると、小川君の手が震えていました。ただ、その手は、暖かい、いや、熱いくらいでした。

その日は、その日のうちにも勉強をしていて、電気を静かに消し、眠りにつきました。


いつもの天井とは違う、透き通った夜空のような暗さでした。でも、それよりはもう少し暗かったかな。


○如月

「試験はじめ。」





「やめ。」


僕はその日、一回もバッグから出されませんでした。帰ってくるなり、一回転したような衝撃を感じました。


その日バッグから見た視界は漆黒でした。電気も消さずに寝たのでしょう。バッグのファスナーから、かすかに部屋の電気が差し込んでいました。


○卯月

4月1日、僕の視界は真っ暗でした。

筆箱に入れられ、バッグに入れられ、何やらバスで移動しています。

 どこかのバス停に着いたみたいです。すると、僕はおもむろにバッグから出され、クリップもないぼろぼろの僕をスーツの胸ポケットにさしました。

「そのペン、筆箱に入れておけばいいじゃない。」

「いや、さしておきたいから、大丈夫。」

そんなお母さんと、小川君のやり取りを聞きながらボーっとしていると、ある場所につきます。


まるで水晶のように透き通った視界に映り込んでいました。


『k大学入学式』




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