第5話
二次会へと流れようとする空気の中、雪子の同僚が軽やかな笑顔で声を掛けてきた。
「波間さん、二次会も行きません? せっかくだし、もっと話したいな」
詩織は曖昧に微笑み返すが、心の奥には居心地の悪さが芽生えていた。そこへ、雪子が隣からすっと身を寄せる。
「詩織は今日はもう疲れてるの。ね、詩織?」
柔らかい声色。けれど、逃げ場を与えない響きがそこにあった。
「……あ、えっと、はい。少し……」
自分で答えたようで、実際は雪子の言葉に引き込まれていた。
雪子はそのまま同僚に笑顔を向ける。
「ごめんなさいね。彼女、明日も朝早いって言ってたから。私が送るから安心して」
その言い方はごく自然で、誰も違和感を持たない。ただ――詩織の腕をとって立ち上がる雪子の仕草は、あまりに当然のようで抗えなかった。
外の夜風に触れた瞬間、ようやく周囲のざわめきから解放される。だが雪子の手はまだ離されない。
「……雪子さん、さっきの……」
問いかけようとした声は、夜の静けさに吸い込まれる。
雪子はちらりと振り返り、目だけで詩織を射抜いた。
「詩織は私と帰るの。当たり前でしょ?」
その声音はやわらかい。けれど、拒絶を許さない支配の色を帯びている。
――これは、独占欲……?
胸の奥でそう思った瞬間、詩織はもう雪子の意図に囚われていた。
「……はい」
かすれる声でそう応えるしかなかった。
雪子の横顔は涼やかに笑んでいて、どこにも自分の本音を明かす気配はなかった。
それなのに、腕を握るその指先からはどうしようもない熱が伝わってくる。
夜は、まだ長い。
この先に待つものを思うと、詩織の心臓は抗えないほどに高鳴っていた。
ホテルの部屋のドアが閉まった瞬間、外の喧騒は一切遮断された。
薄暗い照明の中、雪子は詩織を壁に押しつけ、その耳元に吐息を落とす。
「……詩織、逃げ場なんて最初からないのに、どうしてそんな顔するの?」
耳を撫でる囁きと同時に、胸元を指先でなぞられ、ボタンがひとつずつ外されていく。
詩織は「や、やめて……」と口にしながらも、雪子の手が進むたびに身体が小さく震える。
雪子は微笑んだまま、柔らかくも逆らえない圧で言葉を重ねる。
「言葉と身体、どっちを信じればいい? ……詩織の身体は、もう全部私に従ってる」
シャツをはだけられ、白い胸が露わになる。雪子の手がその柔らかさを弄び、指先で敏感な部分を摘まみ上げると、詩織の背が大きく跳ねた。
「……雪子さん、だめ……っ」
「だめなのに、どうしてそんなに可愛く声を殺そうとするの?」
雪子はあえてゆっくり、焦らすように愛撫を重ね、詩織の足から力を奪っていく。
そして、ベッドに押し倒すと同時に、下腹部を覆う布地に指を這わせた。
「ほら……もう濡れてる。詩織、ちゃんと自分で確かめてみる?」
雪子は詩織の手首を取り、自分の指と一緒に滑らせる。羞恥に震えながらも、快楽の波に逆らえず、詩織の瞳は潤みきっていた。
「ねえ……誰に触られてこんなにしてるの?」
「……雪子、さ……」
「そう。だったら、もう全部私に委ねなさい」
雪子の指が容赦なく深く入り込み、もう片方の手で胸を荒々しく揉みしだく。
詩織の声は抑えきれず、部屋に甘く切ない響きが漏れた。
何度も何度も絶頂に導かれ、詩織は力尽きたように雪子の腕の中に崩れ落ちる。
それでも雪子は耳元で優しく囁き続けた。
「詩織は、私が可愛いって思うから抱かれてるの。……私のものなんだから逃げようなんて、考えないでね」
雪子の言葉は甘やかで、同時に逃れられない鎖のように重く絡みつく。
快楽に支配された身体の奥で、詩織はその支配を拒めない自分を、もう悟ってしまっていた。
夜は長く、雪子の独占欲はとどまることなく、詩織を完全に絡め取っていく――。
部屋の窓の外が白んでゆくのを、詩織はただ朦朧とした視界の中で感じていた。
夜が始まってから、どれほどの時間が過ぎたのか分からない。けれど、その間ずっと、雪子に捕らわれ続けていた。
「まだ震えてる……可愛いね、詩織」
耳元に落ちる柔らかな声。その言葉の端々に潜む支配の色は、優しいのに抗いがたい。雪子の指先が触れるたび、詩織の身体は条件反射のように熱く痙攣し、甘い声を喉の奥で押し殺すしかなかった。
何度も与えられ、そして何度も果てた。
なのに雪子は決して止めない。唇で、指で、時に全身を絡めて、詩織の感覚を余すことなく奪い続ける。
「逃げられないよ、詩織……全部、私のものだから」
囁かれるたび、支配の鎖が深く絡みついていく。
恐怖ではなく、甘美な絶望。
雪子に弄ばれるたび、詩織の理性は崩れ、ただ快楽に身を震わせる存在へと変わっていく。
夜明け近く、息も絶え絶えの詩織を雪子が抱き上げ、胸元に顔を埋めさせる。
「大丈夫。壊れるまで可愛がってあげる」
その柔らかさに、支配の残酷さが混ざり合い、詩織は涙を滲ませながらも抗えない。
与えられる悦びに囚われ、雪子の声と手が全てを支配していく。
窓から射し込む淡い光が、二人の乱れた身体を照らす頃。
詩織はもう、自分が誰のものなのか、疑う余地すらなかった。
窓から差し込む淡い朝の光に、ようやく意識が戻る。
乱れた髪、汗ばんだ肌、そしてまだ雪子の腕に抱かれたままの身体。
詩織は自分の心臓がまだ早鐘のように打っていることに気づいた。
「……雪子さん……」
言葉を出そうとするけれど、昨夜の余韻が喉に絡みつき、素直に声にならない。
身体は完全に雪子に支配されてしまったままで、理性はまだもがいているのに、心はもう抗えない。
雪子はそんな詩織を柔らかく抱きしめ、頬に軽く唇を寄せた。
「まだ震えてる……可愛い、詩織」
その言葉に、理性がゆっくり溶かされる。
雪子の独占欲、甘くて残酷なまでの支配、それがどれほど自分を縛り、そして解放しているのか、詩織にはもう分かる。
胸の奥には、罪悪感がほんの少し残っている。
「だめだ……こんなに支配されて、抗えないなんて」
抗えない自分を責める一方で、身体は雪子の手の感触を求め、心は言葉では表せない快楽と幸福に浸っていた。
雪子はその様子を楽しむように、ゆっくりと指先で髪を梳き、額に軽く触れる。
「ねえ、詩織……私から逃げることなんて、もうできないでしょう?」
柔らかい声で尋ねられ、詩織は小さくうなずくしかない。
抗えない身体、翻弄される心。
それでも、心の奥では不思議な感情が芽生えていた――。
雪子の独占欲に囚われながらも、どこか安心してしまう自分。
理性では理解できない、この快楽と支配の混ざり合った感情。
「……雪子さんのこと、嫌いになれない」
小さな声でそうつぶやき、身体が震えた。
それは罪悪感と快楽、そして甘い依存が混ざった、後戻りのできない夜明けの実感だった。
雪子はただ微笑み、詩織の髪を抱きしめたまま、まだ何も語らない。
けれどその微笑みが、すべてを物語っていた――。
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