第3話

数日後、会議が終わりほとんどの社員が退席した静かなオフィス。

雪子は自然な笑みを浮かべ、詩織を資料室へと誘った。


「詩織……ちょっと確認したい資料があるの」

その声は柔らかく、でもどこか意地悪で、詩織の心臓を跳ねさせる。



資料室のドアが閉まった途端、背中を棚に押しつけられた詩織は、思わず小さく息を呑んだ。

「ゆ、雪子さん……こんなところで……」

震える声で制止しようとするも、雪子は微笑んで首を傾けるだけだった。


「大丈夫。誰も来ないわ。ねぇ、さっきからずっと我慢してたの、分かるでしょう?」

囁きながら、雪子の指先が詩織のブラウスのボタンを一つ、また一つと外していく。抵抗しようと手を伸ばしても、その手は優しく絡め取られ、逃げ道を奪われた。


「……やめ……だめです、ほんとに……」

言葉では拒むのに、胸元をはだけられた瞬間、冷たい空気と雪子の熱い視線が触れて、全身が小さく震える。


「ふふ……やっぱり可愛い。詩織はこうしてる時が、一番素直ね」

雪子の声は柔らかく甘いのに、抗う力を奪っていく。次の瞬間、温かな掌が直接、詩織の胸を包み込んだ。


「……っあ……っ……」

息が詰まり、声が漏れる。会社の中、資料室という背徳的な場所で触れられている。その危うさが、恐怖と羞恥を越えて、むしろ甘い快楽となって押し寄せてくる。


「ほら……震えてる。怖いの? それとも……気持ちいいの?」

雪子はそう問いながら、指先で形を確かめるように胸を撫でた。

答えられない詩織の沈黙すら楽しむように、雪子はさらに体を寄せ、耳元に吐息を落とす。


「もう少し……聞かせて。詩織の声、私だけに」



資料室の奥、静けさを切り裂くように「コツ、コツ」と靴音が近づいてきた。

詩織の心臓は跳ね上がり、胸をはだけられたまま身動きがとれない。


「……っだめ、雪子さん……! 誰か……」

掠れる声で縋るように囁くが、雪子は薄く笑みを浮かべたまま、掌を胸に添え続けている。


「しーっ……大丈夫よ。声、抑えられるでしょう?」

柔らかい調子なのに、逆らう余地のない囁き。指先が敏感なところをなぞるたび、詩織の身体は小刻みに震えた。


ドアの向こうを人影が通り過ぎる。

ドアノブがわずかに揺れ、思わず喉から声が漏れそうになるのを、詩織は必死に唇を噛んで押し殺した。


「ふふ……やっぱり、可愛い」

雪子の吐息混じりの囁きとともに、愛撫は止むことなく続く。

羞恥と恐怖、そして快楽がないまぜになり、詩織は声を殺しながら涙が滲むほど耐えるしかなかった。


やがて靴音が遠ざかり、静寂が戻る。

雪子はようやく手を離し、指先で詩織の乱れた髪をそっと耳にかけてやった。


「……どうして……こんなこと、するんですか……」

乱れた胸元を必死に整えながら、詩織は震える声で問いただす。


雪子は少し考えるように首を傾け、しかし答えはあっけなかった。

「理由なんてないわ。ただ……詩織が可愛いから、触れたくなるの」


「……っ……」

心を乱すその一言に、詩織は返す言葉を失う。

本心を言わず、からかうように甘く翻弄してくる雪子に、怒りとも戸惑いともつかない感情が胸に渦を巻いた。


雪子は満足げに微笑むと、唇を耳元に寄せ、最後に囁いた。

「ほら、また震えてる。……本当に可愛い」

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