第5話 人喰


 8月31日、夏休みが終わった。明日からは新学期が始まる。


 まだ暑さの続く9月1日。一人の女生徒は朝と夕に各1、2本しかないバスに乗り遅れ学校に遅刻した。

 田舎のそのまた田舎。全校生徒が30人程度の中学校。女生徒は偶然に通りかかった臨時バスに乗り学校に着いた。


 だが――


 バスの運転は普段見覚えのない運転手で時折にやりと笑う顔が不気味に思えた。


「気を付けて」


 運転手がそう言って、女生徒を降ろすと静まり返った学校を後にした。

 女生徒は不思議に静かな学校の昇降口から三年の教室に向かった。


 木張りの廊下はギコギコと音を立てる。

 女生徒は三年の教室を扉の前で立ち、ひと呼吸するとノックしてからゆっくりと扉を開けた。

 空になった教室。

 女生徒は体育館で始業式が行われていると思い踵を返した。


 体育館へ向かうため、女生徒は三年の教室がある二階から一階に降りる。

 その階段で血痕を見つけた。その血痕は追うごとに大きくなり、その先で――


 女生徒はヒトの形をした何が男性教師を喰らっているのを目の当たりにし、恐怖でその場所から動けなくなった。

 粘膜を咀嚼するような音が聞こえる。

 やがて人を構成する内臓や筋肉、骨ほぼ全てを喰らい終えた化け物が女生徒の方を向いた。


 つり上がった目つきで女生徒を睨むと男性教師の内臓の一部を咀嚼途中の口を開けた。

 鮮血がポタ、ポタ、と廊下に染みをつくる。


 女生徒は「逃げなきゃ」と思うも身体が動かない。

 化け物は立ち上がると一歩ずつ女生徒に近付く。


 女生徒はその繋がらない神経を無理矢理に繋げ、降りた階段を昇った。

 不思議と化け物は追って来なかった。

 女生徒は二階廊下を走り先ほどとは反対側の階段を降り、校舎を出ると校門へと走った。

 しかし――


 急に肩を掴まれた。

 また粘膜の咀嚼するような音が聞こえる。


「おはようございます……」


 聞き覚えのあるような声がして振り向くが、そこにはあの化け物が無表情のまま女生徒を見ていた。






























 グチャ


 内臓が潰れ、破裂する音を立てる。

 化け物はその肉塊に喰らいついていた。


 そして

 化け物は血まみれの状態でにやりと笑うと――




「気を付けて……」




 と言葉として聞き取れないまるで雑音のような声で言った。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「1分で読める創作小説2025」に応募しましたが、ホラージャンルはあまり良くないと判断しこちらに移動しました。




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ドスグロイキョウキ -禍禍- とろり。 @towanosakura

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