第13話 軋轢は加速して

「なんで契約がなくなるんだよ! 俺はこんなにバズってるのに!」


順太郎はリビングで怒鳴り散らした。

母親は怯えながらも「もうやめてよ、お願いだから静かにして」と泣き声を上げる。

父は険しい顔で帰宅し、机を叩いた。


「順太郎! お前はもう家から出て行け! 俺たちの生活をこれ以上壊すな!」


順太郎はわめき散らし、母親と取っ組み合いの喧嘩にまで発展した。

結局、代理人が割って入り「順ちゃん、独り立ちしよう。俺が手伝う」と促した。

順太郎は涙ながらにうなずき、安い賃貸アパートの契約を決めた。


「やっと俺の時代が始まるんだ!」

順太郎はスマホを掲げ、誇らしげに叫んだ。


新しいワンルーム。六畳一間に小さなキッチン。

順太郎はそこで、スマホを構えて自慢げに撮影を始めた。


「見てくれよ! これが俺の城だ! 俺の独立記念日だ!」


動画はすぐにアップロードされ、再び拡散された。

だが背景に映り込んだコンビニの看板、窓から見える地形。

その断片から、ネット民は瞬く間に住所を割り出した。


数日後、インターホンが執拗に鳴り、ドアが叩かれる音が夜ごとに響く。

笑い声や罵声が廊下を満たし、玄関ポストには悪意のビラが投げ込まれた。


順太郎は布団にくるまりながら震えていた。

しかし、その顔にはどこか陶酔の色も浮かんでいた。


「俺は……必要とされてるんだよな。俺はまだ、終わってないんだ」


かつて土竜と呼ばれた男の影は、再びネットの光に焼かれながら、孤独の闇へ沈んでいった。

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