第12話 【第二幕】再燃の残火
2019年の夏。
浜田順太郎は、B型作業所に通うようになっていた。といっても、彼の中ではその認識はずれている。
「俺、引きこもり支援活動してるんだよ。みんなに勇気を与えてる」
周囲に通う人々は、知的障がいや精神疾患を抱え、静かに作業に取り組んでいた。
だが、順太郎は目の前の単純作業には集中せず、妄想の世界に没頭していた。
そんな順太郎のもとに現れたのが、「代理人」を名乗る人物だった。
30代半ば、黒縁メガネの小柄な男。彼はカメラを持ち、順太郎を見つめながら微笑んだ。
「順ちゃん、君はまだ終わってない。俺がプロデュースしてやる。大手のYouTuber事務所に入れば、君の人生は逆転できる」
オーバーグラスを外した顔を映し出されることに、一瞬だけためらいはあった。
だが「代理人」の言葉に、順太郎は酔いしれるようにうなずいた。
かつてネットの海に沈んだ男が、再び表に引きずり出されようとしていた。
本来なら代理人が用意した計画通りに動くはずだった。
だが順太郎は、スマホを手にした瞬間、抑えられない衝動に駆られた。
「お久しぶりでーす!ホモでーす!」
部屋の中、カラオケ音源を流しながら、大声で歌い始める。
音程は外れ、息は続かず、間奏では関係のない自分語りが延々と続く。
「俺、ほんとは歌手志望だったんだよ! でも時代が追いつかなかった! みんな俺を待ってたんだろ!?」
その配信は、数時間後にはネットを駆け巡った。
視聴者たちは狂喜した。だが、それは応援ではない。
「これが伝説の土竜か」
「ミームとしては最高、でも現実はただのイタいおっさん」
「事務所、こんなの契約できるわけない」
動画は爆発的に拡散され、再生数は一千万回を突破。
しかし、高評価は三千件にとどまり、低評価は一万件を優に超えていた。
代理人が水面下で進めていた契約の話は、あっけなく立ち消えた。
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