増えてきた気づくヒト

古 散太

増えてきた気づくヒト

 ある日の早朝、ぼくは散歩中にふと足を止めた。

 それは瞬間の出来事で、自分でも何が起こったかわからないほどだった。

 フラッシュの光を浴びたようでもあるし、テレビで見たタレントの名前が出てこなくて、ずっと考えていて急に思い出したときのようでもある。

 誰にでも一度や二度、そういう体験をしていると思う。

 そんなことを考えていないときに、必要なアイデアを急にひらめいたり、長い時間忘れていたことを何の脈絡もなく思い出したり。

 そういったことは誰にでも起こることで、不思議でもなんでもない。と言ってしまえばそれまでだが、そういったことが起こる科学的な根拠は、内容によっては存在しない場合がある。

 自然科学という学問は、この世の多くのことを説明することができる。それは間違いのない事実だ。しかし、証明できそうもないことには手を出さないという側面もある。最近海外では未確認飛行物体を国家や軍の単位で調査し始めているが、未確認飛行物体の目撃は、何十年も前からあったものだ。

 どれだけの人が目撃しても、体験しても、声を大に伝えようとしても、この世の理屈で説明できそうにないことは、科学は手を出さない。多くの場合、勘違いだとか、見間違い、夢でも見ていたと言って半笑いされるのがオチだ。

 しかし海外の大国は、本腰を入れて調査を開始している。これまで半笑いしてきたヒトたちが向き合いはじめたのだ。実際に最先端を行く専門家や研究者は、いつの時代も異端扱いされるものだ。なぜなら、周囲がそれを理解できないから。また、最先端のヒトたちも、それをわかるようにすることを苦手にしている傾向があるように思う。

 一般的に理解の及ばないことを、わかりやすくする作業というのは、それだけで大量のエネルギーが必要となる。しかし、いつまでも一般的な理解がとどまっていることはなく、今の時代、すこしずつ追いついてきたような気がする。

 時代はつねに変化していて、今のこの一瞬も変化の途中であり結果だ。いつまでも過去の常識にしがみついていては取り残されてしまう。最先端のヒトたちが突き進んでいくのなら、一般的な思考であるぼくたちも追いつかなかければ、何も理解できなくなる。


 昨今、日本では政治的、経済的な変化が起こりはじめている。それが良いことかどうかは、未来のチェックポイントに当たるその瞬間を待つしかないが、それでもすこしずつ変化しているのはまぎれもない事実だ。

 これまでどおりでは済まなくなってきていると、多くの人が気づいた結果だろう。

 ヒトは気づくのだ。気づいたらそれについて考えて、自らの言動を決めるしかなくなる。放棄ということもできるが、それはそれで後悔することが多いので、多くの人はきちんと考えて、自分の身の振りかたを決めているのではないかと思う。

 実は多くのことが、すでに五感を刺激している。この国の政治的、経済的な変化についても、それ以前から、政府や政治家に対して思うことがあるヒトは多くいたのではないだろうか。それはそのときすでに気づいていたということだ。

 ただそのあとの行動の仕方がわからないため、気がついているけどどうにもできないという状態になっていただけなのだと思う。

 人生についてもまったく同じことが言える。

 たとえば理屈が通らない不思議なことというものがある。シンクロニシティーと呼ばれる意味のある偶然の一致、予知夢やデジャビュと呼ばれる既視感、科学では認められない体験など、多くの人が体験していることがある。

 そのような体験をしたとき、知識があれば、これはシンクロニシティーではないのか、などと考えることもできるが、簡単に否定してきたヒトにとっては何がなんだかわからないまま、不思議な体験をしたという記憶だけが残る。それはやがて、思い過ごしや勘違いというごまかしで決着をつけることになる。

 日常生活の中で、ヒトは思っているより多くの不思議な体験をしている。ただそれに気がつかなかったり、なかったことにしていることで、やり過ごしている。

 禅の世界における「悟りを開く」という体験などは、最高級の気づきではないかと考えている。この気づきを体験してしまうと、それが正しいとか間違っているという判断をすることすら無意味に思える。「絶対的な正解」とでも言えばいいのか、圧倒的な存在感をもって、それ以降の人生に多大な影響を受ける。

 これもヒトが気づこうとしなければ、できない体験なのだ。

 すべてのヒトに気づく機会は与えられている。過去からの蓄積の知識に頼って無視するか、これまでになかった思考や言動に切り替えるきっかけとして受け入れるか。それはそのヒトの自由な選択である。

 そしてぼくは気づいてしまったので、そういう生きかたをする決意をした。

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