十四章 循環儀礼 〈環〉 — 外の外で結ぶ
〈資料 14-1:循環儀礼次第(三場連結)〉
図版注:浜の枠(呼びかけ)・斜面の等勾配(周/還)・空の祈祷盤(CRC偈)を細線で結ぶ。中央に小箱(禁句器)を“外の外”に置く配置図。“三で息/二で渡/偏で返”の印。
抄訳:
一、息は三に合わせ、渡りは二で薄く。
二、偏りを抱いて返し、欠けは跨いで赦せ。
三、封は解けるように、禁は濃くするな。
保存注:初の三場同時“循環”の式次。以後の標準となるも、各地で微改訂。
余白の走り書き:〈環〉
――
網は下り、路は上がり、浜は息を整える。
交錯者の私は、梁(はり)へ身を伏せ、胞子束を“薄く差す”。斜面のイリは、白線の肩を粉白墨で“薄く削る”。浜のエラは、枠の滴りを葦の芯で“薄く揃える”。
三つの薄さが合う場所へ、禁句器の端の導(リード)を“外の外”に触れさせる。触れは触れのまま、結ばない。結ぶと、濃くなる。
「読礼、記礼、偈——薄く始めよ」
梁議の中心で老骨が言い、気嚢が一つ膨らみ、浜の〈息鈴〉がわずかに触れ、斜面の勾配車が羽根の先で空気をつまむ。
息は三。渡りは二。偏りは赦し、欠けは跨ぐ。
唱える言葉は、半分だけわかるほうが良い。半分は、余りを抱くからだ。
導の震えが、網の結節を撫で、白線の周回に薄い影を置き、枠の薄板の上で細い道を呼び出す。
呼び出された音は、音の手前で止まる。止まる手前に、私たちは“読む”。
——黒白黒。白白黒。
——高低高。低。
——落ち。閾。偏。
三つの語彙が互いを薄く撫で、境の線が見えなくなる地点へと寄っていく。
「今」
イリの声。
白線の“還”印の上に、粉が一筋落ちる。
「今」
エラの指。
葦の芯から三滴、四つ目の“待ち”を拒むように、速さが一瞬だけ伸びる。
「今」
私は祈祷盤の欠けを指で跨ぎ、小孔をひとつ差し替える。
三つの“今”が、濃くならぬうちに重なり、薄い輪が閉じかけて——
——閉じない。
閉じないまま、次へと薄く開く。
循環は、閉じるためでなく、返歌のためにあるからだ。
「半分来た」
渡りの骨が囁く。
半分来ると、半分返したくなる。返したくなるのは、危うい。危ういが、それが合図だ。
私は祈祷盤の外縁に、小さく〈返〉を書き、さらに薄く輪を加えた。輪は、増えるために薄い。薄いものは、戻る。戻る場所は、海の底の窪。戻る道は、骨の内の細道。
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