十三章 停戦覚書 〈結〉 — 祖=環/様=様式
〈資料 13-1:正統・異端停戦覚書(雲根街・梁議)〉
図版注:三つの印〈環〉〈祖〉〈様〉が結び合う図。欄外に「読礼」「記礼」「偈」。
抄訳:
一、祖(LUCA)は環(環境)であり、様(PUCA)はその様式である。
二、読礼・記礼・偈は互いを補え。
三、禁は濃くするな。封は解けるように。
保存注:三文明の使いが初めて同席した梁議の覚書。巡礼路・等勾配図・祈祷盤の互換が協議される。
余白の走り書き:〈結〉
――
梁議(りょうぎ)は、張るほどに軋む。
沿岸の記譜師の写し、斜面の等勾配図、わたしたちの祈祷盤。三つの“読み”の型が、梁の上の細い板で出会った。
最初の声は、いつも近い怒りから始まる。「歌だ」「地図だ」「偈だ」。
礫母に似た老骨が、薄く笑って言った。「全部だ。全部で、半分だ」
半分。
半分が揃うと、人は枠を欲しがる。枠は呼びかけ。呼びかけは儀礼。儀礼は制度。制度は印。
私は祈祷盤の欠けを撫で、梁議の中央に〈祖〉と〈様〉の印を薄く置いた。祖=環。様=様式。海の“層”、斜面の“喉”、空の“網”。違う同じ。
「循環儀礼を一度だけ——三つの場をつないで——やってみる」
誰かが言い、誰も否と言わなかった。
網から細い糸が降り、斜面の白線に触れ、浜の枠に結ばれる。〈息鈴〉は鳴らず、勾配車は回らず、気嚢は揺れない。薄い導だけが通い、薄い溝だけが返す。
読礼。記礼。偈。
三つが薄く重なり、半分だけわかった声が、また半分だけ濃くなる。
――欠けを抱いたまま、わたしたちは読む。
――閾を跨いだまま、わたしたちは記す。
――偏りを抱いたまま、わたしたちは結ぶ。
循環は一度だけ、閉じない。
閉じないまま、次に向かって薄く開く。
その先で、最初の和音が、まだ名を持たないまま待っている。
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