九章 改訂 〈改〉 — 動く路を薄く刻む
〈資料 9-1:周回改訂記(守徒合議)〉
図版注:“合法な改訂”の手順。起点印の横に“改”印欄を設け、周回三巡ののちに白線の移設を許す。関は置かぬ。ただし“見張り石”は可。
抄訳:
一、落ちが移るなら、路も移れ。
二、改は薄く刻め。
三、印は祈りの外に置け。
保存注:“改訂”の制度化により、交易者の流入が加速。斜面権をめぐる紛争の記録が併記される。
余白の走り書き:〈改〉
――
薄いものを守るには、薄い手順が要る。
合議は“改訂”を許した。許し方は薄く、“改”の印を起点の脇に小さく置く。周回を三巡し、そのたびに落ちを測り、三つの薄さが揃ったときだけ白線を動かす。
動かすたび、紙は新しくなり、古い紙は箱に眠る。眠るものは、すぐに起こされる。起こされるたび、名が増える。名は増えるたび、濃くなる。
「見張り石(みはりいし)だ」
交易の者が持ち込んだのは、低い柱に刻まれた小さな印で、白線の交点に置かれる。関ではない、と彼らは言う。置くだけだ、と。置かれた石の前で、薄い声のやりとりが濃くなる。濃くなった声は、石の影を太らせ、太った影は道の太さに見える。
私は夜の投影格で、白線の上に砂を薄く撒いた。撒いた砂は、翌朝の風で流れ、太った線から薄い線へ移る。移った跡を“改”として写した。写すたび、写しの中の“禁句器”の小さな円が、私の視界の端で黒くなった。
禁句器はまだ開けない。
合議は“閾の外で”と決め、私は“祈りの外で”と書き、スロは“争いの外で”と呟いた。外は、いつも薄い。薄いところへ箱を運ぶのは、骨が揃っている夜がよい。
――
開ける夜の前に、小さな争いが起きた。
北の浜の者が、白線の肩を“見やすくするため”に太らせた。太らせた線は、祈りの足には楽で、測量の目には粗い。粗い目は、遠くへは届かない。届かない目は、近くを濃くする。近くが濃くなると、扉ができる。扉には名が付く。名は、上下を作る。
「薄く戻せ」
私は言い、粉白墨で太った肩を削った。肩が崩れ、印が欠けた。その欠けを、北の者が“跳躍の印”と呼び換えた。呼び換えは、強い。強い呼び換えは、薄い事実を乗り越える。
スロが私の袖を引いた。「今夜だ、イリ」
今夜、開ける。
私は等勾配図の端に“改”の印をもう一つ置き、その上に小さく〈禁〉を重ねた。禁を重ねると、許しが濃くなる。濃くなった許しは、間違える余地を狭める。狭い余地は、よく飛ぶ。
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