追い返し、許塢
「な、何だ、あの大男は――⁉」
黄巾の
許褚に後続した五百の若人たちも勢いに乗った。黄巾兵は、
「ええい、何をしている! 騎馬は早く城門に丸太をぶつけろ!」
及び腰となる兵たちを尻目に、
すると、
ただひとり、その騎馬に向かって猛進する者がいた。許褚だった。二騎に真っ向から挑むように駈けると、丸太を避けるように跳躍した。宙に身を
許褚が着地すると、均衡を失ったもう一方の騎馬は、乗り手諸共砂塵を巻き上げ勢いよく転倒した。制御を失った丸太が、幾人もの黄巾兵を薙ぎ倒した。
「お、おお……」
その光景に塢の者だけでなく黄巾兵でさえ、
「……な、何が起きてる?」
「縦横無尽に、許褚の奴が活躍しているのよ」
不敵な笑みを浮かべた薛麗が、見上げる張鴦に向かって返した。
「許褚が……活躍している……だと?」
張鴦は、
「……俺は、俺はこんなときに何やってんだ? 今こそ男を上げるときじゃねえか」
さっと顔を上げた張鴦は、後ろに控える三百の若人に振り返った。肩の震えが止まっている。
「怖えのはみんな同じだ! 自分の中の恐怖を追い払え! この
ドオオオン――。
遂に
「
辺りに倒れ伏す
「さて、頃合いか」
東の
隣に侍る
元緒は、その二枚の紙片にふっと息を吹きかけた。
「な、何で――⁉」
許淵と許林杏が
「
不気味な笑みとなった元緒がそう言うと、二体の巫支祁は、天に向かって芭蕉扇をゆっくりと扇ぎだした。一扇、また一扇、その動作は次第に早くなる。
巫支祁たちの頭上に黒気が立ち昇った。その黒気は、忽ち漆黒の墨のようになると天へ
天の一角で雷鳴が轟いた。電光が走ると、また雷が鳴った。ぽつ、ぽつ――と、大粒の雨が降り出したかと思えばその勢いは増し、
「チッ。こいつは分が悪い。ええい、退くぞ! 退け、退け!」
「今日はついてねえな。天気にまで見放されたか。おい、退却だ! 退くぞ!」
何儀と黄邵が下知を飛ばすと、黄色い波が返すように塢から退いていった。
塢からは勝ち鬨が上がった。眼下の若人たちからも勝ち鬨が上がっている。
許褚は、黄巾の賊徒が退いていく東方に目を向けたまま仁王立っていた。勇壮な
「一騎当千とはこのことか。だが、惜しいかな……」
元緒は、その勇壮な背を見遣った。憐れみを帯びた視線だった。
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