第4章

新たなる脅威

 強仕の頃の丈夫じょうぶが地に寝そべっている。被っているかぶとは、牛のような二本の角を備えていた。整った顔立ちに一寸ほどのひげを垂らし、戦袍せんぽう軽鎧けいがいまとい、肩に黄色の巾を羽織って胸元で結んでいた。

劉辟りゅうへきさま、被害は死傷者が五百程度ですね。これくらいで済んでよかったよかった」

 額を黄色の巾で鉢巻はちまいている。調べを終えた若者は微笑を浮かべると、寝そべって目をつむったままの劉辟に告げた。

 許塢きょうにほど近い山中が根城だった。春が近づいてから南方の汝南じょなん郡より北上し、根城にしたばかりだった。

 横たわった劉辟の脇では、何儀かぎ黄邵こうしょうが地に頭をつけて土下座している。

「相手のことをろくに調べもせず、欲に負けて勝手に兵を動かしたんでしょう? 何儀さんと黄邵さんらしいなあ」

 黄色い鉢巻きをした若者が、皮肉な笑みを浮かべて何儀と黄邵を見下ろした。

「勝手に兵を動かしたのは悪かったがよ、龔都きょうとからもおかしらに何とか言ってくれよ」

 顔を上げた何儀が、懇願するように黄色い鉢巻きの龔都を見上げた。

「そうだよ。見たこともねえ巨大な砦に驚いただけだ。次は失敗しねえ。だから、許してくれよ、お頭」

 黄邵も顔を上げて口早に弁明すると、横になっている劉辟の足がピクリと動いた。

「……巨大な砦、ですか? はて? この辺りに砦などありましたかね?」

 小首を傾げた龔都に、何儀と黄邵が交互に応じた。

「以前は、あんなものなかったはずだ」

「ああ。むらを丸ごと砦にしちまったみてえだ。農民が城壁の上から矢で応戦しやがる」

「それに、滅法強い化け物みてえな巨漢もいたしな」

「間違いなくお宝があるはずだ。でなきゃあ、邑をあんな高え壁で囲ったりしねえ」

「――――⁉」

 突如、何儀と黄邵、そして、龔都の三人は、目をいて息を飲んだ。

 弾かれたように半身を起こした劉辟が、食い入るように何儀と黄邵に顔を近づけて言った。

「その話、もっと聞かせろ」

 劉辟の相貌そうぼうには、残忍な笑みが浮いていた。

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