塢
「美味い!」
山盛りの
老夫とは思えない食いっぷりに、主の
餅は、
「命拾いしたわい。それも、こんなに美味い餅は初めてじゃ。
「申し遅れた。
「方士さま……なのか」
許淵は、
方士――。
「
頭を掻きながら言うと、元緒は
そこへ、
「おう、褚も挨拶しねえか。方士の元緒さまだ。幸い、空腹で倒れただけみてえだが」
許淵が許褚に挨拶を促すと、元緒も許褚を
「ん」
言葉数は少ないが、
「ほう。お主は、祠を掃除しておった者じゃな。
「…………?」
元緒は、許褚に目を見張るや否や、残念そうに首を左右に振った。
それを気にも留めず、許褚は
「それはそうと、ここは随分と見事な
腹が満たされた元緒は、思い出したように称え始めた。
「塢……?」
聞き慣れない言葉に、その場にいた者は小首を傾げ、互いに顔を見合わせた。
「何じゃ? お主ら塢を知らんのか?」
「俺たちは、この
尋ねた許淵に
「塢とは、防衛に特化した砦。居住地を城壁で囲み、敵襲を逸早く察知する
「――――⁉」
注目の的は、元緒から許淵へと変わった。その許淵は、
元緒の顔が不敵に歪んだ。
「その様子では、戦乱の災禍から免れるための工夫が、得てして塢となったというところか。ここより遥か北西の涼州辺りでは、さほど珍しいものでもないがのう」
「驚いたな。俺たちは、塢ってやつを築いたってのか……」
「ああ。塢が何たるかも知らない許淵の指示に従ってな」
張平と薛宇が、
「見たこともないものを築いたということですよね? す、凄いことではありませぬか、父上!」
「父上、凄い!」
瞳を輝かせた許定と許林杏が、許淵に尊敬の眼差しを向けた。
「お、おう……」
許淵に浮いた照れ笑いは、ぎこちなかった。確かに、塢というものの存在は知らなかった。必死となって、戦乱の災禍に負けない邑を形にしただけだった。
「なれば、お主が
元緒が、盃の白湯を飲み干してから言った。
「まあ、許淵が邑長みたいなもんだからな」
「ああ。許淵がいなければ、ここまで邑を再建できなかった」
張平と薛宇が、顔を見合わせるようにして元緒に応じた。
「許氏が
これに気をよくした許淵は、満悦となった。
「どうだい、元緒さま。
「ほう」
元緒は驚きの表情となると、
「それは良い。路頭に迷い、空腹で倒れることもないしのう。美味い餅にもありつける」
元緒の目には、静かに
近くの畑では、許褚が二頭の牛に
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