第2章
行き倒れの老夫
九歳となった
誰よりも早起きすると、中庭に作った雨よけの下に向かった。
許林杏は、唐臼の杵の柄を踏み込み上下させると、小麦を叩いて殻を割った。小麦の
「うまくできたな」
いつもの拍子に姿を現したのは、優しい笑みを浮かべた
頃合を見計らった許林杏が、箕から
「ん」
のっそりと
許林杏は、それを手際よく
毎朝の製粉作業だった。この小麦粉を水で
いつもと同じ一日の始まりだった。異変が起きたのは、固く閉ざされていた四方の門が開け放たれた頃合だった。
「北門の前で、人が倒れているぞ!」
まるで、蛙が上から押し潰されたような格好をしていた。全身は、びしょ濡れである。
見れば、ひとりの老夫が倒れ伏していた。身の丈は
そこへ、騒ぎを聞きつけた
「お、おい。旅の人、大丈夫か?」
倒れ伏した老夫に身を寄せた許淵は、恐る恐る漆黒の身を揺すった。
「……腹、減った」
それだけ言うと、老夫は再び伏してしまった。
「どうする?」
眉を
「このままにしておく訳にもいかねえだろう。俺の屋敷まで運ぶか?」
「どれ、俺が運んでやるよ」
「許淵の屋敷まで運べばいいんだな?」
張平が老夫の身を起こすと、馳せ寄せた薛宇が老夫に肩を貸した。
藜の杖を持った許淵が先導している。両肩を張平と薛宇に預けたような老夫の足は、
薄っすらと目を開けた老夫に映ったのは、
すると、許褚が予想外の動作を見せた。昨晩の雨でできた水溜りに浮いた一枚の緑葉を優しく拾い上げると、乾いた土の上に静かに移したのである。
「…………?」
小首を傾げた老夫は、空腹に耐えるように再び目を閉ざした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます