第51話 終業式のあさ 2




 「おはよ!」 フミアキが教室に入ってきた


〈おはよー〉 クラスメイトそれぞれの挨拶の声があちこちから返って来る


 「なんだよネオン 今日は先に来てたんかよ」


少し残念そうなフミアキ ちょっと拗ねた表情にも見えて可笑しかった まぁそりゃ気持ちはわかるけど


 「なに?わたしいないとさみしいの?」

おどけてわざと大きい声で言うとみんながどっと笑う

キョロキョロしてるフミアキが可笑しくてかわいかった


 「なんか変な空気感だな… 花凜なんかネオンに言ってくれよ」 苦笑いしながら花凜ちゃんに泣きつくフミアキ


 「ネオンちゃん強いからムリ」 とぼけた花凜ちゃんの一言にまた教室が沸いた


 「まぁ確かにな、腕力じゃ花凜じゃネオンには絶対に勝てないだろうしな?」 反撃と言わんがばかりにしたり顔でわたしの方チラチラと見てくる

今や教室の視線はわたしたちに向けられてる


 「はいはい、なんでも言ってろ だいたいフミアキに対してもわたしのが強いかもだしな?」

わたしは胸をはって背筋を伸ばし一層背が高く見えるようにする 


「だれもネオンにゃ勝てねーよ」

教室のどこかからの声でまたクラスが笑いに包まれる

 

「なんだよ、みんな朝からテンション高いな」フミアキが笑いながらも嬉しそうにしてた


 「おはようございます」朝の挨拶をしながら先生が教室に入ってきた


 「おはようございまーす」クラスみんなが先生の方をみながら挨拶をする


教壇に両手に抱えてた出席簿やプリントを教壇に置きながら先生がこの後の予定を伝える


 「〜ってのが この後の流れだ。 まぁ特別なことはなんもないから いつも通りに頼む……一つ特別な予定を除いてはな」


 そう先生が告げるのを聞き終えるとわたしはスクッと椅子から立ち上がる みんな座ってる中、一際大きく高く立ち上がる!


 「いつもの終業式だけど 特別な終業式になりますっ!」 


クラスに響き渡るようできるだけ大きな声をだしてた 窓際 一番後ろの席のフミアキが驚いた顔でわたしの方見てた


 「今日で本条ほんじょう文章ふみあきくんは転校します!」


 みんなの視線がいっせいにフミアキに向けられる 戸惑ってるフミアキ なんなら少し窓際にへばりついてる


 『本条くん 今までありがとうー! このクラス このみんなを忘れないでねぇーー!!!』


みんないっせいに声をあげる

その間に黒板まで行ってた南前なんぜんさんたちが黒板を覆ってた布を外した


【本条くん これからもがんばってね!! dear 2組】


そこにはこう描かれた黒板アートがあった

南前さんたちが昨日遅くまで残って下描きしてくれたのをわたしたちが朝仕上げたものだ

唖然としてるフミアキ まだ事態が飲み込めてないみたいだった 更に畳み掛けるように


「これはみんなからの応援レターです 本条くんがどこに行ってもがんばってほしいって気持ちが綴られてるよ」 委員長の小島が本条に手紙を渡した


クラスからは温かい拍手が起こってた 静かな拍手だった わたしにはみんなが心からフミアキを送り出してくれてるように感じた


呆気にとられて状況をただただ呆然と見ていただけのフミアキもようやく事態を理解しだしていた…


「おれ、」 なにか言おうとしてるフミアキ 言葉がでないのかずっとうつむいてる


「おれこういうのやなんだよ…特別扱いされたくねえんだよ…」 絞り出すようなフミアキの声をみんな黙って聞いていた


「なんだよなんだよ、みんなおれに隠して、グルになって、困るんだよこういうことされちゃ…」

フミアキの震える声にわたしまで震える


「こんなことされちゃ迷惑なんだよぉ!!!」

顔を上げて大きな声で叫んでたフミアキは

泣いてた…


泣いてるのを隠そうともせず感情を爆発させてた

「こういうのがイヤで、こうなんのがツラくて、なのにこうなって… 迷惑なんだよ…ガチでやだわ…」

フミアキの方見て泣いてる子もいた みんなみんなの感受性が高まってるの感じた

 「でも今はちがう、ちがうわ こんな気持ちになれるくらいみんなといたいと思ってる」

うん、正直に言えてるぞフミアキ

 「みんなとだけじゃねぇだろ ネオンといたいんだろうが」 しんみりした中みんなが笑う ハンカチで目をおさえてた子たちも笑う

 「なに言ってんだー!? 高橋!!」わたしはそう言って高橋をにらむ…顔もニヤけながら

 腹を抱えて笑う高橋にわたしは心の中でありがとうって言ってた

 「神楽が言ったように本条は今日をもって転校することになった あらためて本条、みんなに挨拶しろ、ほら前に来い」 先生がフミアキに挨拶を促す

後ろの席から黒板の前に行くまでみんながまた温かい拍手をしてる

 「えと、今日でこの学校を出て行くことになりました おれは今までも何回も転校してきてて特になんの想いも持たないまま転校してきてたけど、今回はおれの思惑通りには行きませんでした! 神楽ネオン!おまえのせーだ!!!」

 えっ!? なにそれ!? もう少ししんみりするんじゃないの!?!?

 「なんもかんもおせっかいなネオンのせいでおれは…おれはこのクラスのことが みんなのことが 学校のことが大切になってしまった! 転校なんかしたくないって!! ふざけんなっ!!!」

みんなシーンとしてた… フミアキもまた泣いてた

わたしも泣いてた…

 「でも、こんな感情もなんも持ってなかった今までのが寂しいことなんだって気づけた… それに気づけたから受け入れることもできた つまり結局あいつのせいだってこと…」 


    「だからさ、ありがとうネオン」


わたしはそのフミアキの言葉に涙が溢れて止まらなかった

花凜ちゃんも泣いてた

二学期の終業式だなんて思えなかった


 「みんなもほんとにありがとう お互いからだには気をつけてこの先もがんばってこうな!」

再び拍手が起こる 先生もなんだか満足そうだった

そりゃこんなクラスの担任できたら幸せだろ?


 「もう少ししたら終業式で体育館に移動だからな 後は委員長頼んだぞ」 そう言って先生はそそくさと教室を後にした

 みんなはフミアキを囲んで話しをしてた

「ネオンちゃんは行かないの?」 花凜ちゃんがわたしの顔をのぞき込みながら聞いてくる

 「花凜ちゃんありがとね おかげですごく素敵な時間になった わたし一人じゃ無理だった ほんとにありがとう」 わたしは花凜ちゃんの手を握りながらお礼を言う 「わたしだけじゃないよ みんなのおかげだから」 謙遜気味に笑ってみせる花凜ちゃん

「わかってる ほんとそれはわかってます!」

今日はなんだかこのクラスの一員であることが誇らしかった



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