第48話 告げる
テストも終わったある日のお昼休み
わたしとフミアキはいつものように図書室へと向かった
二学期も残り少ない、だからと言って普段と変わらない一日
いつもと変わらない風景に、いつもと変わらないフミアキが映ってて、これがわたしの日常になってた
今までつまんないって思ってた校舎や教室や廊下や学校での景色が今だけは違って見えてた
そう、これは恋してるからなんだって思えた
つまりフミアキがいるからなんだって
歩きながらフミアキの顔をぼんやり見てた
周りの風景もフミアキごとわたしの視界のフレームに収めながら…
「ん、どした?」 わたしの視線に気づいたフミアキが聞いてくる
「べつにー」 なんて言ってフミアキから視線を逸らした瞬間なんもないとこで躓いた
「よそ見しすぎ」 倒れそうになったわたしの手を咄嗟にフミアキが掴んでくれて転ばずにすんだ
「だれのせいだと思ってんだ…」 そう言ってわたしはスタスタと先を急ぐ
不思議そうな顔しながらフミアキも着いてきた
ー ガラガラッ ー
図書室の扉を開く いつもほんと誰もいない
図書室はいつもわたしたちだけの空間になってた
わたしたちがいつも座る場所だけに埃が積もってないように見える
「これ、ありがと 読んだ」
わたしはフミアキに借りてた『車輪の下』をカバンから取り出して返した
「どうだった?」
わたしから本を受け取ったフミアキはパラパラ頁を捲りながら感想を聞いてくる
「なんだろ…わたしにはわかんないや」
満足そうに笑うフミアキ
「わたしはさハンスみたいに神童でもなければ優等生でもないから 同じような悩み抱えてる人がいるのはわかるし もっとそれだけじゃない社会の構図みたいなのもなんとなく理解はできるけど、やっぱわたしは自分で切り開きたいから」
同じようにわたしも笑う
「そうだろな いろんなもん背負ってここまでやってきたんだもんな ハンスと同じじゃなくてもネオンは乗り越えてきてるよな」
「フミアキだってそうだろ」
「そうだな 今となってはかなり不器用だったんだろうけどな」
「お互い本が好きってとこは共通点だったけど それをどう活かしてたかは違うもんね 正解なんてないし個人の解釈なんだもん どんな理解の仕方してたとしても間違いじゃないんだろうしね」
「ま、好きなように読めってことですわ」
こうやって共通の話題でお互い理解しあって笑えるのがホントに好きだった 本の話しや感想から価値観だって近くて似てるって思えてた こんな話し誰とでもできる訳じゃなかったし わたしにとっての大切な時間だった
急に一人可笑しくなったわたしは我慢しようにもできずにクスクスと声を出して笑ってしまった
「ん? どうした?」
不思議そうにフミアキがわたしの方を見る
「ううん なんでもない…なくはないかな…」
「もうね、いろいろ気づいちゃったんよ」
「なにを?」
「そうね、そうだね 発表しちゃうか!!」
「なんよ、なになに??」
フミアキも少し驚いたような顔してる
「わたしの気持ちがなんなのか、ってこと」
急にフミアキが真顔になる
「で… 言ってみろよ?」
わかってるくせに…なんて思わなくもない
「きっとね、これはたぶん、『恋』だと思うんだ したことないからわかんないんで確証はないんだけど…つまりわたしの今置かれてる状況は『恋』してる状況ってことだ」
言ってて恥ずかしいとかなかった
なんか冷静に分析して発表してるみたいだった
もっとドキドキするのかなとかフミアキの顔見ることもできないとかあるのかな?って思ってた
けど現実はちがった フミアキの顔、なんなら目を見て話てた どうしてそうなのかはわかってるから
だってわたしは嬉しかったから
ここまでいろんなこと諦めてきてた
恋に対して憧れもなければどうでもいいとさえ思ってた
そんなわたしが恋してる そのことに気づけたのもスゴいと思えた 否定しなかった ガマンしなかった 素直になった 花凜ちゃんもカノンもママも きっとクラスメイトもみんな気づいてた
いつまでも気づいてないふりはしたくなかった
それこそわたし自身のことだもん!
「え…今ごろ…?」
わたしの真剣な表情を見て笑いを堪えてる表情をするフミアキ
「えっ?」
こんなに真剣に正直に話してるマジメな話しなのに、感動してもおかしくない話しじゃん?
「まぁいいや」
「おれはいつからかわからんけどネオンに惹かれてた
一緒にいれるの嬉しかったし楽しかった 今までこんなこと一度もなかった おれが壁作ってようがいまいが関係なく一度もなかった」
「今ネオンが通ってきた道、つまり自分の今の感情がなんなのか?ってのはおれも悩んでた時期あった ネオンより早く答えは出てたけどな」
「だけど それはホントに無理って思ってた この気持ち打ち明けたくなかったし 打ち明けたところで、だしな」
「だけど今こうして知っちまったからなぁ ネオンが正直に素直に話してくれたおかげで」
「めちゃめちゃ嬉しかった…」
「でもね、まだこれが『好き』とかはわかんないの
今の現状は『恋』なのは間違いないと思う」
「だって『好き』だからどうしろっていうのかわかんない ネットやドラマや小説で知ってるような気持ちにはなんないから」
「それでいいじゃん ネオンらしいし おれもその方が今の『恋』って状況をたのしめるような気がする」
「これって素直なんかな?素直じゃないんかな?」
言っててわかんなくなったわたしはフミアキに質問してみる
「さぁ? どっちでも素直なんじゃね?」
あー、やっぱフミアキはフミアキだわ
どっちも今のわたしのホントの気持ち!これが素直じゃなくてなんだって言うんだ!?
「じゃさ、素直ついでにもひとつ言っとく。」
もう我慢することなんてしたくなかった
だから胸の奥に蓋してた気持ちもフミアキに伝えた
「だからさ、ほんとはやなんだよ…まだ離れたくないんだ わたしが『好き』ってはっきり言えるように…」
言ってた どうしようもないことだってわかってるのに…困らせるだけなのに…
「……。」
フミアキはうつむいて黙り込んでしまった
「こんなこと言っちゃダメなのわかってんだよ だけどわたしはもう素直になっちゃったんだ…だから、だから…言っちゃうんよ」
今さら後悔しても遅かった でも自分の気持ちに正直になってしまった以上抑えてはおけなかった
これもわたしの大切な素直な感情だったから
「おれもだ おれだって転校したくないし 引っ越したくもない。ネオンとだって花凜とだってクラスのみんなとだって離れたくない…」
「うん わかってる ごめん」
「あやまんなよ ネオン前におれに言ったろ? なんも悪くないんだからあやまんなって…。 今のネオンの気持ちおれは嬉しいから」
「そうだよな 一番ツライのはフミアキだもんな でもこれもわたしの正直な気持ちだ 受け取ってくれてありがとう、だよな」
わたしはそう言って笑顔をつくる
湿っぽくなりたくなかった
もっと楽しい思い出いっぱいでフミアキを送り出したいって思ってたし…
あんだけ無愛想だった頃が嘘みたいに今はみんなと離れたくないって思ってるなんて…
『そうだ…』 わたしはある計画を思いついた
わたしにできることやれるだけやってみようと思った
さみしそうに窓の外を見てるフミアキの姿を見てわたしはまた自分を奮い立たせた
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