第39話 なんでだよっ
えっ…なんて言った? 今なんて言った?
本条声小さすぎてちゃんと聞き取れなかった
ねぇなんて言ったの?
「え、」
頭の中か心の声かは出てるんだけどホントの声が、言葉が出なかった
本条がなんて言ったのかもう一度聞きたかった
言葉が出ないわたしとわたしの方を見てない本条
今わたしがどんな顔してるかわかんない
今本条がどんな表情してるかわかんない
「ちょっと待って」
なんとか振り絞った言葉
本条は微動だにしない
「なんて言った? ねぇ」
わたしの思考にやっと身体が反応した 追いついてきた 頭の中にあった言葉がようやくわたしの口をついて出てきた どんな口調になってたかわかんない どんな声で聞いてたかわかんない
【文字のような
こんだけがんばって聞き返した言葉はにわかに信じたくない言葉だった
「引っ越すんだ また」
本条の言ってる言葉の意味はわかる
単語だって文法だって間違ってないしわかる
英文にすることだってできる
そんだけわかってる 理解してる
でもね、でもねでもねでもね…
「なんで…なんで?」
本条の答えにたいして出てたわたしの言葉
本条の言葉ぜんぶわかってるのに理解できるのに
わたしから出た言葉は物わかりの悪い言葉だった
「引っ越すって…なんで…」
なんにも言わん本条
本条が答えんとわたしなんも言えん
もし今抑えてる感情が爆発したらわたしどうなっちゃうんだろう そんな自分想像できない
じわじわと現実を侵食してくる言葉
今のわたしには受け入れたくない現実
いろんな感情で頭ん中パンクしそうだった
時間だけが過ぎてた
どんくらい過ぎてたのかわかんなかった
なぜだか二人とも動けなかった
沈黙を破ったのは本条だった
「神楽にだけは伝えたかった」
その言葉がこの話しが現実なんだと思い知らせてくる
ほんとの意味を受け入れた時わたしは泣いてた
なんにもわかってない なんにも整理ついてない
そんな想いが涙と一緒に溢れてきた
「いつ? いつ引っ越すの…」
回らない頭で必死に聞いてた それはまるで残された時間がどれだけあるのかのカウントダウンが始まるような気がして
「二学期終わってすぐ 28日だってさ」
淡々と答える本条 もう一ヶ月とちょっとしかないじゃん… その現実にまた涙が溢れる
「泣いてんのか…神楽」
わたしの震えた声に気づいたのか本条がこっち見てた
咄嗟にうつむいて涙を隠す
「泣くわけないだろ バカか…」
そう言った声は震えてた バレバレ過ぎ
わたしを見てるのがツラいのか本条はまたわたしから目を逸らした
「みんなには黙っててほしい 特別扱いされんのとか嫌なんだ」
なにを言われてもぜんぶ入ってこなかった
誰にも話さんよ、こんなこと
「こんなこと言ってごめんな 神楽」
本条がわたしに言った『ごめん』って言葉にわたしは無性に腹が立った
どこにもぶつけれなかったわたしの想いがその『ごめん』に向けられた
「ふざけんなっ!! なんだよ ごめんって!? なんか本条悪いことしたんか!!」
「この町がいやで 高校がいやで 勉強がいやで 友だちがいやで…わたしがいやで転校したいって言ったんか!!!!」
「んなわけあるはずねえだろ!」
「だったら謝んなっ!!! なにがあったって本条は悪くないだろ!!」
「わたしたちが決めれることじゃないから 引っ越しも転校も! ぜんぶぜんぶまわりの環境じゃん!! 大人の事情じゃんっ!!!
わたしが転校したいって一人で言っても無理だし、ましてやわたしたちは一人じゃどこにも住めないから! 振りまわされるしかないじゃん!!」
「だから謝るなよ 本条が言ってどうにかなることをやらなかったって言うなら話しは別だ けどそんなことないハズだろ そうだったら今までだって言ってきただろうし自分を偽って壁作って無理なんてしなくてよかったハズなんだからな!」
「ごめんなんて聞きたくないんだよっ!!!」
爆発してた 感情をコントロールできなくなってた
なに言ってんのかわかんなかった
ぜんぶぜんぶ伝わるとは思ってなかった
ただ吐き出せればよかったのかも
「やっぱ神楽はまっすぐだな」
黙ってわたしの話しを聞いてた本条が言った
「うっさい わたしはネオンだ!」
なんにでもわたしは噛みついてた
「だったらおれもフミアキだ!」
お互い名乗りをあげてた
勝者なんかいない戦いが始まるかのように
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