第40話 逃げ帰る

「また自分だけ話してスッキリしたか?」


「なんもスッキリなんかせんっ!せんし…」


「もうやだ なんかわからんし やだから」


わたしは立ち上がって呼び止めるフミアキを残して走り出した

走って走って頭の中カラッポにしたかった

考えたくもないし泣きたくもなかった

いつものわたしが恋しかった

今日この公園に来るまでのわたしに戻りたかった

なんもかんもわかんなくなって、ただわたしは走った

きっと家に向かってるんだろうってことはわかってた

全速でなんて走ってないのわかってる

そんなことここでできっこない

だけどとにかく疲れたかった

走りきってトラックに仰向けで寝転んでる時の自分になりたかった なんも考えられなくてハァハァ息を整えてるだけの自分が羨ましかった


家に着いたわたしはただ一目散に部屋に駆け込んだ

カノンが驚いた顔してた

わたしになんか言ってたの聞こえてた

ほっといて!とだけ伝えてわたしはベッドに潜り込んだ カノンは心配してたようだけどわたしをそっとしといてくれた 

その日は夕飯も食べずに寝た お風呂もなんもかんも放棄してただただ寝た なぜだかずっと涙は出てた


その日わたしは夢を見た


わたしがアンにならってつけた名称の数々が次々と開発って名の下に壊されてく夢

『歓喜の白路』や『恋人の小径』なんかが壊されてく

わたしは泣いてるけど黙って見てるだけ

みんなそうすることが当たり前のように壊されてる見慣れた風景に無関心で通り過ぎる

ただ泣くだけのわたしも見向きもしないで通り過ぎてく人もなにも変わりはしない

無くなってく風景に関係ないから…

やだ やだ やだ…って思ってもなんにも変わらない


目が覚めた時は真っ暗でいったい今が何時なのかもわかんなかった

手探りにスマホを探して時間を見る

光った画面がすごく眩しい

時刻は早朝の5時を過ぎたところだった

夢のことを思い出しホッとする

あれは夢だったんだ…って

夢の内容よりも自分の無力への自覚だけが残ってた

後味の悪い夢…


ラインは…来てなかった


わたしは浴室へ行ってシャワーを浴びる

鏡をみると目が腫れぼったい

泣きながらうつ伏せで寝てた末路だった


ーやば 学校あんのに…ー


この季節シャワーだけじゃ寒いけど仕方なかった

目も覚め着替えて部屋に戻る

そこにはカノンが起きてた

どうやら目が覚めてわたしを待ってたようだった


「おはよ ネオン」


「おはよ」


「ママにはわたしからそっとしといてやってほしいって言っといた パパもママも心配してたから」


「ありがと」


「みんな心配してる それ以上にネオンのこと信用してる」


「うん」


嬉しかったカノンの存在

ちっちゃい妹なのにわたしのこと心配してる

大っきい姉は心配かけてる



それでもわたしの気持ちの整理はついてなかった

なにをどう処理していいのかわからなかった

でも自分でどうにかするしかなかった


学校行く前にパパとママには笑顔で「ごめんなさい」と「ありがとう」を伝えた

二人ともなにも言わずに『いってらっしゃい』って言ってくれた


ほんとは学校に行きたくなかった

なんか目も腫れぼったかったし なによりフミアキに会いたくなかった

なんにも整理がついてない なんにもわかってない現在いまの自分の気持ち そこに気づきたかった

気づきたいって思いながら正面から向き合ってなかった 




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