第27話 本条と公園へ
帰りの電車を降りたわたしたちはトボトボと駅の階段を上がり改札へと向かう
少し疲れたのと電車が少し混んでたので黙り込んでた電車の中
改札へ向かう上り階段も行きより足取りは重かった
それでもわたしは今日一番の決意を実行するため本条くんに声をかけた
「あのさ本条くん 『片想い』読み終わった?」
「あぁ 終わった 今日までに読んでおこうと思ってたしな」
「じゃさ 帰りにちょっと本の話しせん? こっからならうちのが近いからさ荷物うちに降ろして本条くんち行く途中にある公園とかで」
さらっと言ってるようでなんかすごくドキドキしてた
「あぁ そうだな おれもあの本は思うとこあったし誰かに話したい気分だったからな」
内心ホッとしてた なんかここで断られたりしたらホントに買い出しだけ来たみたいになる
いろいろ聞きたいこと話したいことがあるわたしはとりあえず一安心してた
二人で自転車に荷物を積んで押しながら歩いてた
わたしの家に向かって
しばらくして家について荷物を降ろす
ふと二階の自分の部屋の方を見るとカノンがカーテンの隙間からこっち見てた 玄関開けたり閉めたりで気づいたんだろうけど目ざといやつ
そんなこと本条くんは気づいてなかったけど
荷物を降ろして身軽に自転車を押す
買い出しの荷物がなくなったことで学校を思わせるものがなくなり わたしはより一層プライベート感が増してた
「『カラフル』あれからまた読んだ 最初読んだのは5〜6年生くらいだったかな 今読んだら印象変わってた」
「うん 変わるよな おれもあれは三回くらい読んでる 読むたび印象が変わるってさ まさにカラフルじゃね?」
うまいこと言うじゃん!って思った
案外本条くん自身もそう思ってたりして
「プラプラってどんなやつか想像しなかった?」
わたしは読み返すまで忘れてたプラプラって名前
名前忘れてても印象的なキャラだった
「した!した!てか登場人物みんな想像すんの楽しいんよな」
わかる! 頭の中に世界広がるんよね
本読む楽しみの一つだよね
「出てくる人も最初めっちゃやなやつって思っててもなんか憎めなくなるって言うか みんなそれぞれ抱えてるっていうか」
わたしは登場人物をあげながら話した
「きっとそのとき読んだ年齢でもまた印象変わってくんだよな 神楽だって前に読んだ時よりは大きくなってんだし」
「そうだね〜 もっと大人になっても読んでるのかな〜」
何気なく思ったこと口に出しただけなのに 本条くんは少し考えて返事をした
「大人になったらそんな時間あんのかな なんかに追われて余裕ないかもな」
追われる…か 本条くんが放った言葉はわたしの中の何処かにひっかかった
「そんなんだったら大人になんのやだわ」
本を読む楽しみすら奪われちゃうとしたら 大人ってなんの楽しみもないんじゃないか?なんてわたしはこの時思った
公園まで待ち切れないわたしは自転車を押しながらずっと話してた
本条くんも学校で見る本条くんとはやっぱり違ってた
『カラフル』だけについて話しながら歩いてたら公園に着いた あっという間だった やっぱめっちゃ楽しい!!
夏よりも陽が落ちるのが早くなったこと実感させるオレンジ色に包まれた公園
小高い丘にある公園は狭いながらも日常とは区別された空間を創り出していた
落ち着ける場所にわたしたちは陣取った
「じゃさ 『片想い』はどうだった? わたしさすがにあれは全部読み返してないんだけど内容は覚えてる 『カラフル』は人にはいろんな一面があるって感じさせてくれたのと対照的に『片想い』はそもそもの人がいろんな人いるんだって思わせてくれた」
わたしはまだまだ話足りないって感じで話し出した
だって話足りないし時間も足りないかもって思ったから
「ほんと神楽は話したいんだな いつもあんだけ友だちとも話してんのに」
「友だちと話してても本の話題なんか出ない 花凜ちゃんが少し読んでるくらいで他は本よりスマホ」
「そうだろうな いまどきそうだろ おれたちのが変人扱いだろ」
うんうん大きく頷いて納得してる素振りみせる本条くん こんくらいの冗談学校でもしてみたら?
「『片想い』読んでまずこれを書かれたのいつだ?ってなった 2001年!?ってなってホントびっくりした まさに
少し興奮気味に話す本条くん
読んだ余韻が残ってると話すときこういう感じになるのわかるんよね
「だよね 知らなかったこといっぱい出てきた
美月さんの生き方苦しかったろうな なんて想像したの覚えてる 仕事とか夫婦とかそんなんも考えさせれたよ あとわたし陸上やってるから睦美さんのとこすごく興味深かった」
「おれも読むまで知らなかったことだらけだった その知らないことで苦しんでる人がいることも知れた
美月のことや睦美のこと 生まれつきどうしようもないことに翻弄されてる」
「睦美さんの悩みなんて本筋とは関係ないかもだけどすごく切実で理不尽で不当で読んでてつらかった」
「たしか【性分化疾患】のことだっけ そんな身体があるなんて『片想い』読むまで知らなかったもんな
それでスポーツの世界じゃいろいろと規定されてたり 今のジェンダーの心が女性って言ってるだけにみえる人たちとはまた一線を画す問題だもんな」
「ほんとにね 物語の中とは言え同じスポーツやってる身として読んでてつらかった 睦美さんがなんかしたんじゃないし ただ生まれつきそうだったわけ…
それでも一生懸命に陸上に向き合ってる姿勢、わかる…」
自分じゃどうしようもないこと、生まれつき…
当人にしかわからない苦悩なんよね
自分に置き換えなくても考えれることなんだろうけど わたしは身につまされる思いだったの
「【性分化疾患】っての知ってからわたしも気になって自分でも確認したんよね このまま陸上この先やってるかなんてわかんないけどさ そういうのあるって知ったら念の為って思って」
「えっ…? 確認??」
えっ?って言って一瞬こっちを見た本条くん
すぐに顔を逸らす
「えっ…?」
えっ?本条くんの反応に一瞬状況がわからなかったわたし でもそれはほんの一瞬だった
すぐに顔を逸らした本条くんを理解したわたしは心の中で《しまった》を繰り返してた
お互い顔をそむけて下を向いてる状況をなんとかしなきゃとわたしが話しかけた言葉は普段から本条くんに抱いて疑問だった
「えと あの 本条くん… あ、あのさ なんで学校じゃあんなに無愛想なん?」
このタイミングで聞こうなんて思ってなかった
もっと本について話してたかった
まるでその場を取り繕うかのように聞いてしまった質問は ほんとはもっと大切なわたしの心の声だった
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