第49話 収束する異変

「そういえば一条、家の方は大丈夫だったのか?」

「え、あぁ、リビングの窓ガラスが粉々にされたのは参ったけど、そのおかげで事件の解明が進んだから良かったのかもしれないね」


「・・・・・・そういや、般若の人が家の周りを徘徊してたって事を考えると、窓ガラスを破って侵入してきたのもその人だったって事か?」

「そうだよ、侵入してきた人は精神病棟に勤務していた女性職員で、その人からも内部事情を聴いたんだって」

「女性職員が窓ガラスぶち破って追いかけてきてたのか?」

「うん」

「・・・・・・・そ、そうか」


 般若の仮面をかぶったら女性でも馬鹿力が出せるようにでもなっているのだろうか?

 とにかく、ここまでの話を聞いて、今回の一連の事件での大体の疑問点は解消されたように思えた。それはいろんな意味でよい事だとは分かっていたのだが、俺にはどうして引っかかっていることがあった。


 それは、精神病棟の患者をとある犯罪ルートへとあっせんしているという事実が明らかになっていないという事だった。


 精神病棟の理事長による未成年軟禁と虐待、精神病棟職員殺害事件による怨恨の連鎖と院内虐待の解決は済ませてあるとして、その疑惑が残ったままだ。

 精神病棟に巣食う陰と陽の事件、その背後には決して暴かれることのないもう一つの何かがあるように思えて仕方なかった。


 だが、精神病棟が閉鎖となった今、そこまでの心配をする必要はないかもしれない。

 そうして、あらかたの話を終えた俺と一条は補修に取り組んでいると、教室の扉が開かれた。

 すると、そこには四谷さんの姿があり、彼女は深々と頭を下げながら教室へと入って来た。


 すると、一条がすかさず席から立ち上がり、四谷さんの元へと駆け寄ったかと思うと、そのまま抱擁を交わした。


「桃花ちゃんおはよう」

「う、うんおはよう」


 四谷さんは明らかに困惑した様子を見せており、一条は相変わらず彼女の事を抱きしめており、なかなか話す様子を見せなかった。

 すると、そんな中四谷さんがまるで助けを求めるかの様に俺に目を向けてきた。


「お、おい一条、その辺で離してやれよ」


 俺がそういうと、一条はようやく四谷さんから離れた。すると、一条はわずかに涙ぐんでおり、鼻をすすっていた。


「ごめん、桃花ちゃんが学校に戻ってきてくれて、私嬉しくて」


 その様子を見ていると、今度は四谷さんの方から一条へと抱き着き始めた。助けを求めたくせに今度は自分から一条に抱き着くのか?


 そんな、よくわからない女性という生き物の謎のコミュニケーションは最終的にお互い涙を流しながら抱き合うという異様な光景を見せつけられた。


 そして、俺は補修に集中することにした・・・・・・

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