第48話 すべては彼女の為に

「言っている意味が分からない、どういう事なんだ?」

「そのままの意味だよ、ほとんどの職員が患者さんに暴力を振るっていたの」


「わざわざ般若の仮面をかぶってか?」

「そう」


「なんでそんな事するんだ?」

「仮面をつけると罪悪感が消えるんだって・・・・・・あと、彼女のためだって」


「彼女のため?」

「花輪麗子さんの同僚で下山勉に殺された同僚女性の事。そして、般若の仮面をつけて入院患者に暴力を振るう行為は花輪麗子さんによってはじめられたそうなの」


 花輪麗子が殺された同僚の為に始めた奇行、それが、他の職員にも伝染していったという事になると、あの精神病棟はもはや医療機関でも何でもない。

 おまけに理事長は未成年への虐待だ、まさか、そんな事があの山で繰り広げられていたとは・・・・・・どおりで山の様子がおかしいわけだ。


「花輪麗子が始めたなら主犯としての罪は重い、それに賛同した職員たちも同罪だろうな。それに、他の入院患者は死んだ女性とは無関係だろ」

「その通りだよ、でも花輪麗子さんは自分の起こした行動に悔いはないと言っていた」


「悔いがないだって?」

「うん、目的は達せられなかったけど、やるべき事は全てやったって」


「花輪麗子は自分勝手でこの先の未来に強い禍根は残した、絶対に許される行為じゃない」

「そうかもしれないけど、あの人にも色々あったんだと思う」


「被害にあった人がたくさんいるんだろ?」

「それは、わかってるけど花輪さんだって大切な人を失くした気持ちを何とか晴らそうとしたんだと思う、多分、それが人間なんだよ・・・・・・」


 一条の言葉に反発したい気持ちがあったが、という言葉を聞いて、返す言葉が見当たらなくなった。

 当然、そんな言葉で逃げるべきでは無いと思うし、数多くの無念を晴らすために人類はこれまで数々の救済方法を生み出してきた。


 だが、それでもすべての人を救えない状況下になった場合、やはり最後には自分の力で何とかするしかないという判断に行きつくのも人間かもしれない。


 だからこそ花輪麗子は今回の様な事件を引き起こしたのだろう。


「・・・・・・それが人間か?」

「うん」


「じゃあ一条も花輪麗子の様な状況になったら同じ事をするのか?」

「私はしないよ、絶対」


「絶対?なんでそう言い切れるんだ?」

「・・・・・・それは」


 一条は言いよどみ、うつむく様子を見せた。その様子はどこか悲しく弱々しいものであり、俺は少し言い過ぎたかと反省した。


「悪い、言い過ぎたな」

「ううん」


「それで、言いたいことは全部か?」

「ちなみに、ここまで話したことはまだ公になってない話だから、他言無用でお願いします」


 一条は、そういいながらわずかに俺に頭を下げる様子を見せた。


「・・・・・・俺は共犯って事か」

「そういう事」


 そう言うと一条は、黙々と補修の課題に取り組み始めた。

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