第47話 般若

「山藤君と別れたあと、花輪麗子さんを自宅で介抱することになったの」

「自宅でしたのか?」


「うん、しばらくソファーで花輪さん寝かせた後、目を覚ました彼女から父さんが色々聞きだしてた」

「そうか」

「私もその場に一緒にいたんだけど、花輪さんかなり睡眠不足だったみたいで、目のクマとかもひどくて・・・・・・なんか可哀そうだった」


 一条は今にも泣きだしそうな表情でそう言うと、しばらく沈黙した後再び喋り始めた。


「それでね、花輪さんの目的はただ一つ。殺されてしまった同僚の無念を晴らすべく、自らの手で下山勉をさばきたかったんだって」

「だから、下山勉が捕まったって聞いたときに取り乱していたのか」


「うん、それから精神病棟の理事長とのつながりなんだけど、あれは善意からの行動だったみたい」

「善意?」


「花輪さんは、未成年がKトンネルで肝試しについでに市販薬の乱用する現場を何度も目撃してらしくて、それも、すぐにでも治療な必要なほど衰弱している様子も見てたから、近くにある精神病棟まで送ったりしてたんだって」

「じゃあ、花輪麗子は善意で未成年を精神病棟に入れてたって事か?」


「あの精神病棟では薬物依存の治療を行っていたのは知ってたから、そうしたんだって彼女は言ってた」

「そうか」


「花輪さん、未成年の子たちの事をかなり心配してたみたい。だから頻繁に理事長と会ってたみたい」

「でも、元々あそこに努めていたならわざわざ理事長に会う必要も無かっただろ、同僚とか先輩後輩もいただろうし、そういう人に聞けばよかったんじゃないか?」


「なんか、薬物治療の分野は理事長が積極的に関わっていたみたい」

「そうなのか、じゃあ一連の件で一番の悪だったのは精神病棟の理事長だったわけだ」

「・・・・・・でも、そう簡単な話でもなかったの」


 一条はずいぶんと深刻そうな顔でそう言うと、まるで言葉にするのに困っている様子を見せた。


「無理していう必要はないぞ、俺は別にすべてを聞きたいわけじゃない」

「いやっ、聞いてほしいの、そうじゃないと困る」


「困るって、別に俺は困らないが?」

「私が困るの、一人で抱えるの怖いし」


 わがままな一条はわずかに怒った様子を見せた。だが、その調子のまま彼女は喋り続けた。


「今回の一件で、精神病棟そのものが閉鎖する方向に行ったのは知ってるんだよね?」

「あぁ」


「その原因が般若の人が関わってるっていう話は知ってる?」

「いや、知らない」


「あの精神病棟では患者への虐待が横行していたの、それもかなりの頻度で」

「四谷さんも話していたことだな、そんなにひどかったのか?」


「うん、一部の患者に対してはかなりひどい扱いをしてたみたいで、しかも、職員のほとんどが関わっていたっていう話なの」

「どういう事だ、そんな事が本当にあるのか?」

「うん、日替わりで、般若の仮面をかぶって虐待行為を行っていたみたいなの」


 その衝撃的な言葉に、俺はにわかには信じられなかったが、目の前の一条はいたって真剣な表情をしていた。

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