第46話 補修と雑談

 花輪麗子が気絶した後、一条の親御さんは彼女を病院に連れて行くことになり、俺はそれについて行かずにKトンネルに置き忘れた自転車で自宅へと帰った。

 その後の事については全く連絡が来ることもなく、俺はこれまでの一連の事件を忘れるかのように日常へと戻ろうとしていた。


 そして、それから数日が立った頃、俺は今日も学校に補修をしにやってくると、そこには一条の姿があり、彼女は俺を見つけた途端、わざわざ席から立って出迎えてきてくれた。


「山藤君、おはよう」

「お、おはよう、なんだよいきなり」


「話したい事がたくさんあるから待ってたんだよ」

「いや、俺は補修をしに学校に来たんだが・・・・・・」

「勿論補修もするよ、でも、話しながらでもできるでしょ?」


 そう言って一条はどこか嬉しそうにそう言うと、自分の席に座り、俺も補修のための用意をして席に着いた。

 すると、一条はさっそく話しかけてきた。


「実はね、今日の補修から桃花ちゃんも一緒に参加することになったの」

「へぇ・・・・・・」


「なんか反応薄いね、山藤君」

「四谷さんは大丈夫なのか?」

「うん、いろいろあったけど、桃花ちゃんも学校に戻りたいって」


 一条はどこか安心した様子でそんな事を言っていた。そんな彼女の横顔はどこか微笑んでいるように見えた。


「ならよかったな」

「それでね、精神病棟の件だけど」


「知ってるよ、もうあちこちでニュースになってる、今朝もテレビでやってた」

「そっか」


「精神病棟の理事長による未成年児童への不当な入院強要と虐待行為。被害にあった未成年の児童たちは解放されたが、それに伴って追加調査が入った精神病棟では数々の問題行動が発覚し、精神病棟そのものの閉鎖予定が噂されている」

「未成年の児童以外にも患者への虐待問題があったみたい」


「静かな町があっという間に騒がしくなって俺はうんざりしてるよ」

「そうだね」


「もう少し穏便に済ませてくれればよかったのにな、これじゃまともに夜釣りも出来ねぇよ」

「山藤君、まだ夜釣りしてるの?」


「まぁな、それが俺の仕事だし」

「・・・・・・ねぇ山藤君、ずっと気になってたんだけどその夜釣りってのは一体どういう意味が」

「そんな事より一条、俺に話したかった事ってのはそれだけか?」


 俺は夜釣りの話をぶった切るようにそう言うと、彼女は何かを思い出したかの様に手を叩いて見せた。


「大まかなことはニュースでやってる通りだけど、その中でも言ってないことも多くてさ、それを共有したくて」

「共有って、何を?」


「般若の人とか、女の霊の事とか」

「・・・・・・あぁ」


 そうだった、表ざたになっていないとはいえ、そういう問題がまだ残っているうえに花輪麗子がその後どうなったのかも俺は知らない。

 いや、知らない方がいいかもしれないが、一条の反応を見るに、彼女はその情報を知っている様子であり、それを俺と共有したいらしい。

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