第41話 近づく真実
異様な光景、決して近づくべきではない状況ではあったが、俺の隣にいる一条はどこかうずうずとした様子で今にもあの二人の元へと飛んでいきそうだった。
すると、そんな時全身コートの人がその場を去っていく様子が見受けられた。
その様子を見計らった後、一条はおもむろに立ち上がると、トンネルの方へと歩き始めた。だが、俺はすかさず彼女の腕を掴むと、一条はそれを振り払おうとしてきた。
「おい、本当に冗談じゃ済まされないぞ一条」
「離して山藤君、私いかなきゃならないの」
「行く必要はないだろ」
「だめ、これ以上の犠牲を出しちゃダメなんだよ」
一条の意思は固く、その強すぎるといっていいほどの正義はおそらく父親譲りなのだろう。
俺は万が一の事を考えて一条の身の安全を最優先に付き添うと、トンネルの入り口にいる心霊写真の女性が俺たちの様子に気づく様子を見せた。
「あら、こんばんは、また会ったわねカップルさん」
心霊写真の女性であり、トンネルでバイトをしているという水色のワンピースの女性は、まぎれもなく花輪麗子そのひとであることを改めて認識できたような気がした。
いや、間違いなく一条の親御さんに見せてもらった花輪麗子本人であり、彼女はは一条の事を凝視しながら挨拶をしてきた。すると、一条も軽く頭を下げて顔を上げた。
「こんばんは花輪麗子さん」
「・・・・・・」
一条は花輪麗子について知っている様子であり、その名前が出た途端、名前を呼ばれた彼女は笑顔を消した。
その表情変化があまりにも早く、狂気じみているように感じた俺は思わず身構えると、彼女は俺にも目を向けてきた。
そして、一条と俺の顔を見比べながら彼女は口を開いた。
「うーん、どこかであったのは間違いないけど、名前まで言った覚えはないかなぁ」
「花輪麗子さんで間違いないんですよね」
「えぇそうよ、でもどうして私の名前を知ってるの?」
「新聞で見ました」
「あら、新聞を読むなんて古風で勉強熱心なのね」
「はい、花輪さんの活動はとても尊敬できるものです」
「・・・・・・そう、それで今日はこんな夜更けに何の用なの?」
「どうして花輪さんは未成年に付きまとう様な事をしておられるのですか?」
一条の言葉に花輪麗子はわずかに眉間にしわを寄せた。だが、すぐに笑顔になって反論してきた。
「どういう事?何のことかわからないんだけど・・・・・・」
「間違いなくあなただったという証言もありますし、私自身、あなたが私の家の周りを徘徊していたのを見ました」
「さぁ、人違いだと思うけど?」
「いえ、間違いなくその水色のワンピースを着ていました」
「水色のワンピースなんて、誰でも着てるでしょう?」
「深夜に、手ぶらで歩いている女性なんて不審すぎますよ」
「・・・・・・ねぇ、ちょっとこれは一体何なの?もしかして警察ごっこでもしてるの?」
「違います、私はこれ以上未成年を精神病棟に連れ込むような真似を見過ごすわけにはいかないんですっ」
一条の強い語気にその場は一瞬で静まり返り、花輪麗子も神妙な面持ちを見せ始めた。
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