第40話 好奇心

 だが、そんな様子の中で一条が身を乗り出してその人の事を見つめていた。


「一条、もう少し隠れろって」

「あの人、私たちを追ってきてた人だよ」


「本当か?」

「うん、見た目が一緒」


 一条が言うなら間違いないのだろう、だが、ここまで追ってきたうえで山に入っていくなんて、一体何が目的だったんだろうか?

 そんなことを思いながら徐々に見えなくなっていく人の姿を確認したところで、俺は自販機の裏から離れて自転車に向かおうと思っていると、一条が立ち呆けているのが見えた。


「おい一条、ここを離れるぞ」

「ねぇ山藤君、私、父さんから教わったの」


「何を?」

「誰かに襲われそうになった時、逃げるんじゃなくて立ち向かえって」


「・・・・・・いや、一条それはこの状況には当てはまらない奴だ」

「もしかしたら、あの人を追いかけたら何か分かることがあるかもしれない」


「馬鹿な事を考えるのはやめろ、大人しく安全な場所に行くぞ」

「でも、これ以上四谷さんみたいな人を増やすわけにはいかないよ」


「だからそれは、一条の親御さんたちに任せて」

「私達にも何かできることがあるかもしれないでしょ?」


「いや・・・・・・」

「それに、家まで侵入してきた人の事をちゃんと知っておいた方が今後の捜査に役立つでしょう?」


 そう言うと、一条は山へと向かった人を追いかけて行った。まるで何かに取りつかれた様に動き出す一条に、俺はすぐに彼女を追いかけた。

 だが、状況が状況なだけに大声を上げる事も出来ず、加えて一条は思っているよりも足が速くて追いつくのに苦労した。


 くそ、さすがに自転車で逃げる時に頑張りすぎただろうか?


 そんなことを思いながらも、一条を追いかけているとやがて俺たちはKトンネルの近くまで来ており、一条はその目前で近くの茂みに身を隠し始めた。

 そうして茂みで息を切らし、膝に手をついて呼吸を整える一条に追いつくと、彼女は何かを指さしていた。

 

「山藤君、あれ見て」


 一条の指さす方向を見ると、そこにはKトンネルの側に二人の人がいる事に気づいた。一人はさっき自販機の裏で確認した俺たちを追いかけてきていたであろう全身コートの人。

 そして、もう一人はあのKトンネルで出会った事のある心霊写真に写る女性だった。


 よくわからない状況の中だったが、視線の先の二人は平然とした様子で会話している様子がうかがえた。

 こんな深夜に、ちょっとした立ち話という状況でもなくしっかりと何かの会話をしている様な雰囲気だった。

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