第39話 深夜の逢引き

 深夜にもかかわらず煌々と輝く自販機の光は、恐怖ですさんだ心を癒してくれるようであり、自転車で疲弊した体を潤してくれる最高のオアシスだ。


 そう思いながら自販機で水を二本購入して、一本を一条に手わすと、彼女は少し疲れた様子で息を荒げていた。


「大丈夫か一条」

「う、うん、ちょっとドキドキしすぎて・・・・・・」


 一条はその場に座り込んでうなだれた。その様子を眺めながら周囲を警戒していると、一条はゆっくりと立ち上がって俺に話しかけてきた。


「山藤君ごめん、水ありがとう」

「あぁ、気にするな、もういいのか?」


「うん、大丈夫」

「悪いな、こんなところまで連れてきてしまって」


「いいの、それよりもびっくりしたよ、まさかあんな事になるなんて」

「犯人の顔は見たか?」


「さすがに暗くてわからなかったかな・・・・・・」

「そうだよな」


 無我夢中で逃げたの正解だったかもしれないが、このままだと一条が家に戻るのは危険すぎる。そもそも、一条家を襲撃してきたやつが誰なのかすらわからない状況だ。


 それこそ、ただの泥棒という可能性も否定できないが、俺たちを追いかけてきていたという事は、俺か一条のどちらかが目的だったかもしれないという事だ。


 どうにも身動きがしにくい状況だが、ここは一条だけでも安全な場所に連れて行きたいところだが・・・・・・


「山藤君?」

「一条、とりあえず一条だけでも安全な場所に連れて行きたいが、どこか頼れる場所はあるか?」


「・・・・・・ごめん山藤君、頼れる場所もないし携帯も忘れたから」

「そうか」


 そうして悩みあぐねていると、ふと、暗闇の中にうごめく何かを見つけた。

 

 その異変に俺は一条を連れて自販機の後ろへと隠れた。


 そして、自販機の陰から暗闇を眺めていると暗闇の中から現れたのはフード付きのコートで身を包んだ人だった。

 その妖しい奇妙なその人は、俺たちが乗って来た自転車の側で立ち止まると、それをくまなく調べる様子を見せ始めた。


 だが、すぐに周囲を見渡し始めると自転車に何かをするわけでもなくS山の方へと歩いて行った。

 

 おかしな行動、そしてあの道が行く先にあるのはKトンネル。時間問わず、あそこに行く理由がある人は少ない。

 

 何より、俺たちが乗って来た自転車を確認しただけのそぶりは、まるで俺たちを追ってきていたかのような行動にも見える。


 だとしたらあの不気味な人は、一条の家を襲撃したかもしれない人であり、俺たちを追いかけてきたやつである可能性がある。このまま、自販機の裏で身を潜めた後、この場を離れるべきかもしれない。

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