第37話 箱入り令嬢
一条家への道のりはなんとなく覚えているが、問題はその道を走っていかなければならないという事だ。
自転車があれば、っもうすこしはやくたどりつけるがあいにくその自転車はS山に置きっぱなしだ。
こんなことなら日中に取りに帰っていればよかったが、まさかこんな出来事が起こると思っていなかっただけにいろいろな予定が狂った。
いや、そんな心配よりも今は一条の所に向かうのが先決だ。
そうして、俺は必死に走って一条家の近くまで来くると、周囲に妖しい人物がいないことを確認しながら、ソロリソロリと一条の家にたどり着くと、おれはすかさずインターフォンを鳴らした。
だが、返事が返ってくることはなく、俺は一条に電話をかけてみると、かのじょはすぐに応答してくれた。
「もしもしっ、山藤君っ」
「あぁ、大丈夫だったか一条」
「うん、大丈夫だよ」
「今お前の家の前にきてるんだが怪しいやつはいない」
「実はさっきまでいて、私の家をずっと見てきていたんだけど、あきらめたようにどこかに行っちゃったの」
「そうか、ならよかった」
「ごめんね、今玄関開けるから」
「え、いや、俺はこのまま帰るから」
「そんなこと言わずに」
そうして、玄関の扉が開かれると、そこにはゴルフクラブを持ち、頭にヘルメットを着けた一条の姿があり、彼女は泣きそうな顔をしながら出迎えてくれた。
「ずいぶんと物騒だな」
「だって、山藤君が武装しろって言ったじゃん」
「いや、それはそうなんだが」
「とにかく入って」
「え、あぁ」
そうして、再び一条家へとお邪魔すると一条はリビングに案内してくれた。
っていうか、家中の電気がついていてテレビではバラエティ番組が大音量で放送されている、よほど怖い思いをしたのだろう。
「なぁ一条、どれくらい般若の人はいたんだ」
「うーん、多分一時間くらいかな」
「長いな、その間ずっと家を監視されてたのか?」
「ウロウロしたり、監視してきたり、それの繰り返しだった」
「何かをしてくるとかは?」
「なかったよ」
「ならよかった、じゃあ俺はもう帰る」
そうしてリビングを出て行ことしていると一条が俺の腕を引っ張ってきた。
「えっ、ちょっと待ってよ山藤君、もう帰っちゃうの?」
「当たり前だろ、今何時だと思ってんだ」
「じゃあなんで来てくれたの?すぐ帰ったら意味ないじゃん」
「いやぁ、俺はこの後夜釣りに行くからそのついでで・・・・・・」
しまった、言わなくていいことも口にしてしまった。
「えぇっ、今から夜釣りに行くの?」
「・・・・・・」
「ねぇ山藤君、昨日あんなことがあって今日も夜釣りに行くとかどうかしてるよ?」
「いや、一条には関係ないだろ」
「私もついていっていい?」
「はぁっ!!何言ってんだ一条、大人しくしてろよ」
「でも、またこの家に般若の人が来るかもしれないじゃん」
「じゃあ、警察呼ぶか」
「そんなの近所迷惑だよ」
「そんな事言っている場合じゃないだろ」
「でも、ここにいたらいつどうなるかわからないし」
「いいからおとなしくしてろ、そのうち親御さんも帰ってくるだろ」
「でもっ」
「でもじゃないっ」
そうして、俺は一条の制止を振り切り一条家を飛び出そうとしたのだが、一条は俺の後をついて来ようと必死に体にしがみついてきた。
「お、おいっ、マジでやめろって一条」
「だって、怖いんだもん」
「だからって俺にどうしろっていうんだよ」
「側にいてよっ」
こんなシチュエーションでなければ、感動的な青春の一幕になりえたが、目の前の一条は涙と鼻水を流しながら必死の命乞いをしており、俺はそんな彼女を見捨てることができなかった。
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