第36話 動き出す異変

 理解しがたい一条の言葉に一瞬頭がこんがらがった。


 寝起きという事もあってかうまく理解できない状況の中、一条が興奮した様子で話を続けてきた。


「ねぇ、聞いてる山藤君」

「いや、聞いてるけど、一条が何言ってるのかが理解できない」


「だから、般若の人だよ、あの精神病棟で追いかけてきた般若の人っ!!」

「・・・・・・なんだ、怖い夢でも見たか?」

「違うよっ、すぐそばにいるんだよっ」

 

 一条は駄々っ子みたいに電話越しで怒った様子で喋っていた。その様子にさすがに嘘ではないのかもしれないと思った俺は、家を出る準備をしながら一条の電話対応をした。


「なぁ、親御さんとかはいないのか、俺じゃなくてその人に頼るとかは?」

「いないのっ」


「じゃあ、お手伝いの福井さんは?」

「福井さんは営業終了してるのっ」


 まるで、スーパーマーケットみたいな表現だな。しかし、一条の親御さんがいないという事はどういう事だろうか?


「他に人はいないのか?」

「いないよ」


「だから俺に電話してきたのか?」

「うん」


「まぁとにかく、家の施錠をして大人しくしてればいい、あと親御さんは仕事でいないのか?」

「違うの、実は・・・・・・」


 一条はなぜが口ごもった。その間に家を出て一条の家のそばまで行ってみることにした。


「なんだ、言いづらい事なら言わなくていいけど、とりあえず家にいれば安全だろう、じゃあな」

「ちょっと待ってよ山藤君っ」


「なんだ、話し相手にはなれないぞ」

「そうじゃなくて、父さんが今、四谷さんのところに行ってるのっ」


 現在時刻は夜の11時42分、普通に考えて人がお宅に訪問する時間とは思えない時間帯だ。


「こんな時間に?何かあったのか?」

「うん、桃花ちゃんが取り乱しちゃったみたいで」


「言い方は悪いが、それだけで四谷家に行ったのか?」

「父さん連絡があって、なんでも桃花ちゃんが女の幽霊を見ちゃったみたいで、そしたら父さんがすぐに行くって」


「またそれか、それで一条の親御さんは家に行ったんだな」

「そう、でもそのあとに私の所に般若の人が来て、怖くて」


「今のところ、危害を加えられたりはしてないんだな」

「うん、大丈夫」


 どうやら、相手は一条家と四谷家を標的として動いているらしい。昨日の今日でずいぶんと動きが早い・・・・・・


「なぁ一条、家の中に護身用の武器とかはないか?」

「武器?」


「そうだ、もしもの時の為に何か持っておいた方がいい、俺はとりあえずお前の所に向かう」

「えっ、来てくれるの?」


「ついでだ、走っていくから時間がかかるかもしれないが、それまで持ちこたえてくれ」

「う、うん、気を付けてね」

 

 そうして、俺は一条と電話をつないだまま一条家へと向かった。

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