第35話 徘徊する狂気

 だが、検察官と警察官を前にして俺のようなただの高校生が、これ以上事件に首を突っ込む必要などない。

 犬飼さんも一条の親御さんを頼りにしている様子だし、俺はこの辺りで身を引かせてもらうのがいいだろう。


 きっと一条の親御さんだって理解を示してくれるはずだ。


「あの、少しいいですか?」

「ん、何だい山藤君?」


「いや、なんだか物騒な話になってきたので、俺はこの辺りで身を引かせてもらってもいいですか?」

「えぇっ、そんなこと言わないでよ岳弥君」


 警察官として、いや、それ以前に大人としての威厳が全くない様子の犬飼さんは俺に向かってそんな言葉を吐いた。

 その表情はどこか悲しげであり、その目からは今にも涙があふれてきそうに見えた。


「いや、本格的にやるっていうのなら俺はもう必要ないですよね」

「それはそうかもしれないけどさ、山藤君の力は絶対に必要になると思うんだ」


「だから、俺は高校生なんで」

「うぅ、そうか、よく考えたらそうだよね・・・・・・」


 犬飼さんは残念そうな様子でうなだれると、一条の親御さんが俺に話しかけてきた。


「厄介な事に巻き込んでしまって本当にすまないね山藤君」

「いえ、こっちこそ中途半端首を突っ込んどいてすみません、でも、今の話を聞いてたら俺が出る幕もないだろうと思いまして」


「あぁ、君がそういうのならそうすべきだ。ただ、君はこの一連の事件に巻き込まれる可能性もあるかもしれない、十分に身の回りには気を付けてもらいたい」

「はい、その点については気を付けて生活しますし、何かあれば連絡を取りますので」

「あぁ、お願いする」


 その後は、俺は席を外しして、一条の親御さんと犬飼さんによって今後についての会議が行われた後、二人は家を出ていった。

 二人の背中を見送った後、これまでの怒涛の出来事から解放された気分になり、ほんの少しだけ安心できた。


 だが、とはいっても問題が解決したわけでもなく、道が分かれただけであり、俺は俺でこれからもあの山へと向かわなければならない。

 なんにせよ、問題は山積みでその生涯を彼らが取り払ってくれることを望むだけだ。


 それにしても、まさか一条の親御さんが検察官だったとは・・・・・・いやいや、もう考えるのはやめだ、ひとまず昼寝でもして夜に備えて体を休めよう。


 そう思って俺は自室に向かった。


 ここ最近の出来事からか、俺はあっという間に眠りに落ちてしまったのだが、突然の電子音によって俺は目を覚ました。


 携帯端末が振動して電子音を響かせている。


 いつものアラートかと思って携帯端末を手に取ると、画面には一条という名前が表示されており、電話の着信を知らせていた。


 何事かと思って応答ボタンをタッチすると、すぐさま一条の声が響いてきた。


「山藤君っ!!」


 目が覚めるような大声に、俺は完全に目を覚ました。


「い、一条か?」

「うん、ごめんねいきなりこんな時間に」


「まぁいいけど、なんだ、どうしたんだ一条?」

「実は、私の家の近くに変な人がいるの」


「変な人?」

「そう、般若の仮面をつけた人がいるのっ」

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