第34話 恨み

「あの、この人が一連の事件にどう関係してるんですか?」

「精神病棟での事件後、彼女はすぐに職場を退職し、同僚殺害した犯人の捜索活動を熱心に行っていることが分かっている。ほら、新聞にも取り上げられるほどに熱心な活動だ」


 三つ目の資料には新聞の記事がいくつか貼り付けられており、確かに写真の女性と同じ顔の人が、凄惨な事件の解決に努めているという記事が掲載されていた。


 写真の女性は「花輪はなわ麗子れいこ」という名前で、熱心な活動家としての注目を集めている様子だった。


「記事を見る限り、とても有名な方に見えますね」

「あぁ、彼女の活動はもちろんの事、その美貌も影響しているのだろう、注目度は日に日に増している」


「でも、そんな人と今回の事件に関連性があるとは思えないんですが」

「・・・・・・表向きにはね」


「表向きというと?」

「彼女には、あまり良くない噂もあるという事だ」


 そう言うと一条の親御さんは電子端末を取り出すと、ネット記事を見せてきた。


「これは、個人のライターが書いたネット記事だが、そこに興味深い内容が記載されていてね、花輪麗子が精神病棟の理事長と頻繁に会っているという事、そして、あの精神病棟の関係者から院内での暴行や軟禁といった悪事があるという情報が出ているんだよ」

「この記事は、信ぴょう性のある話なんですか?」


「私はその記事を書いた個人ライターに直接取材を行い、ネット記事に関連する人たちからも話を聞いた。話を聞く限り嘘ではないように思えたよ」

「でも、その話に花輪麗子って人がどう関与しているんですか?」


「・・・・・・」

「彼女は殺された同僚の為に活動をしているんですよね。それが他の事件と関連してる理由がわかりません」


 一条の親御さんは少し考え込む様子で黙ると、犬飼さんが落ち着かない様子で俺に話しかけてきた。


「ちょ、ちょっと山藤君」

「え、何ですか?」

「一条さんは検事さんだよ、もう少し敬ってだね」


 犬飼さんの忠告に、確かに少し熱中しすぎたかと思っていると、一条の親御さんが口を開いた。


「いや、いいんだ犬飼君、山藤君の言っていることは至極真っ当な事だ」

「すみません、俺もちょっと調子に乗りすぎました」


「気にしないでいい、山藤君の疑問の答えは無いのは事実だ。だが、君とあの精神病棟での出来事、それに四谷さんの証言からもあの精神病棟で何かが起こっているのは間違いないと私は思っている」

「・・・・・・それは確かにその通りです」


「花輪麗子が事件に関連しているのかは確定していないが、逆を言えば、彼女が関わっていない、という事を証明をするのも難しいのは間違いないはずだ」

「はい、その通りだと思います」

「手っ取り早いのは花輪麗子本人への接触だが、犬飼君の話を聞く限り簡単に口を割るようには思えないだろう」


 一条の親御さんの目配せに犬飼さんは静かにうなづいた。


「じゃあ、これからどうするんですか?」

「一連の事件解決のカギを握るのは四谷親子だ。彼女たちができるだけ健康な状態に戻り、あの精神病棟での出来事を明確に証言してくれることが必要になる」

「そうですか」


 大まかな事件の内情と、それを解決するために条件が揃っているという状況の中、俺みたいなただの男子高校生がでしゃばる必要がないとわかったことに安心していた。


 これなら、あとは一条の親御さんに任せておけばおのずと解決し、犬飼さんとの関係も落ち着いて俺の高校生活が元通りになるのかもしれない。


 だが、それでも嫌な予感がぬぐえないのは、あの精神病棟で出会った「般若の人」と、一連の事件の中で共通する「女の霊」という不思議なキーワードだった。

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