第30話 公僕の犬

 一条家を後にした俺は、わが家へと帰ってくると、そこには見覚えのある車が止まっていた。

 そして、その側には一条の親御さんが立っており、まるで俺の事を待っていたかの様に俺の事を凝視していた。

 

「あ、あれ・・・・・・どうして一条の親御さんが?」

「山藤君、君がまさかあの山藤家のご子息だったとはね」


「いや、ただの田舎者ですが」

「この家に来た時にピンときた、山藤道場と言えば知る人ぞ知る武道の名家だ」


「・・・・・・さぁ、昔の話ですかねぇ」

「私も昔、世話になったことがある」


「えぇっ!!」

「まぁ、その話は今どうでもいい、私がここにいる理由それは・・・・・・」


 一条の親御さんの真偽不明の発言に困惑していると、俺本当に待っていた人物がやってきていた。

 その人は、おれが一条と一緒にKトンネルに行った時にパトカーで送迎をしてくれた駐在の警察官であり、彼はラフな私服姿でやってきた。


「いやぁ、待たせたね山藤君、さっそく例の件なんだけど・・・・・・あっ、あなたはっ」

「ん、君は?」

「わ、私はこの近くの交番に勤める「犬飼」と申しますっ」


 犬飼さんは何故か姿勢を正し、敬礼をしながら返事をした。


「そうか、山藤君は警察の方と知り合いなんだね」

「これは、その・・・・・・」

「彼とは知り合いじゃないのかい?」


 まるで嘘を吐くなと言わんばかりの威圧感に俺は正直に話すことにした。


「知り合いというか、うちの門下生の一人でして」

「そうか、それで君達は何か用事でもあるのかい?」

「え、まぁそんな感じですよ、じゃあ俺はこれで」

 

 そうして、一条の親御さんから逃げようと思っていると、彼は犬飼さんに話しかけた。


「犬飼君だっけ、今日はどんな用で?」

「あ、はい、今日は山藤君と会議を予定しております」


「会議?」

「はい」

「その会議、私も参加させてもらって構わないだろうか?」


 一条の親御さんの提案にすぐさま断ろうと思っていると、犬飼さんは敬礼しながらすぐさま了承した。


「勿論です、とてもお心強いですっ」

「そうか、ではさっそく行こうか」


 そうして、俺は家へと帰るというのになぜ緊張しながら自宅の門をまたいだ。そして、自宅のリビングに一条の親御さんと犬飼さんを招いた後、お茶を用意して戻ると、二人は一言もしゃべる様子もなく座っていた。


 どうしてこうなった。


 そう思える空気の仲、二人の前にお茶を置いて椅子に腰かけると犬飼さんがはきはきと喋り始めた。


「それにしても、山藤君が一条さんとお知り合いだなんて、もっと早く言ってくれればよかったのに」

「いや、昨日今日知り合ったばかりなんで・・・・・・っていうか、犬飼さんは一条の親御さんを知ってるんですか?」


「おや、知らないのかい?この方は有名な検事さんだよ」

「け、検事?」


 まさかとは思い、俺は一条の親御さんに目を向けると、彼は俺の目をじっと見つめてきていた。確かに、初めて会った時から目力の強い人だとは思っていたけどまさか検事だったとは。

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