第28話 未成年の失踪
「無い話でもないですね」
俺が声を上げると、その場にいた全員の視線が一斉に集まった。そして一条の親御さんが話しかけてきた。
「何か気になることでもあるのかな山藤君」
「あ、いや、あそこの精神病棟では薬物依存の回復治療を行う機関が併設されているはずなので、それの事かと思います」
「薬物依存?」
「はい」
「それと未成年の学生とどう関係があるんだい?」
「最近、若年層による市販薬のオーバードーズとかニュースで見たりしませんか?」
「あぁ、確かに聞くが、それが一体・・・・・・?」
「案外、この辺りでもそういう事件が発生していて、多くの未成年が警察のお世話になっているという話です」
「じゃあ、学生たちを更生させるために精神病棟へと入れているという事か」
「おそらくそうだと思いますけど、四谷さんはどう思いますか?」
ここで彼女に話を振ってみると、四谷さんはどこか怯えた様子で俺を見つめてきていた。
「わ、私っ、薬なんてやってませんっ」
「いや、そんな事を疑っているわけじゃありません、ただ、あの場所がどういう雰囲気だったのかを聞きたくて」
「そ、そっか・・・・・・」
「はい」
「でも、さっきも言いましたけど話を聞いただけで本当に未成年の子たちが集められているかなんて事は分かりません」
「じゃあ、その情報を教えてくれた子はどんな様子でした?」
「彼女は、それを見たと教えてくれただけです、本当にそれだけです」
「そうですか、じゃあ般若の人ついては、その後も何度か見ましたか?」
「見る事には見ました、たいてい騒いでいる病室に現れるみたいでした。」
「そのことを職員の人に伝えたりはしましたか?」
「そ、そんなに言えるわけないじゃないですか、言ったらどうなるか、わかったものじゃないですし」
「確かにそうですね、じゃあ理事長とは何か関わりはありましたか?」
「あ、はい、何度か顔を合わしました」
「どんな感じでした?」
「あまり印象にはありませんでしたが・・・・・・あっ」
ここで四谷さんは何かを思い出した様子を見せたが、どこか躊躇するようなそぶりを見せながらうつむいて黙り込んでしまった。だが、すぐに顔を上げると俺の目を見て話し始めた。
「私が仲良くなった学生の子が、理事長の事を話すと血相を変えて不安定になっちゃったんです。それで、私に向かってなんども「ごめんなさい」って。それが一体何なのかわからなかったんですけど」
「なるほど」
「それに、彼女がまだあの場所にいるのかと思うと、なんだか置き去りにしてしまったかのようで・・・・・・私、何もしてあげられませんでした」
若干、精神的に不安定な様子を見せる四谷さんに疑念を抱きながらも、これ以上の情報が彼女の口から語られることは無く、この場はひと段落が付いた。
そして、しばらくお茶菓子を楽しんだ後、一条の親御さんがこの場を締め始めた。
「k要はわざわざありがとうございました四谷さん、あとはご家族の方とゆっくりされた方がいい。さぁ、ご自宅まで送迎しますのでこちらに」
そういうと、一条の親御さんは四谷一家を連れてリビングを出ていき、俺は一条と二人きりで取り残されてしまった。
すると、一条がどこか目を輝かせているかの様なワクワクとした様子で俺の近くに寄ってくると、彼女は口を開いた。
「ねぇねぇ山藤君、これってすごい事件の匂いがするんじゃないの?」
「探偵ごっこならやめとけ、これ以上親御さんに迷惑かけない方がいい」
「でも、山藤君だって探偵みたいに桃花ちゃんに尋問してたじゃん」
「あ、あれは・・・・・・」
「やっぱり、山藤君も気になるんでしょ?」
「違う、俺はただ本当に迷惑だからどうにかしたくてっ」
俺は少し声を荒げると一条は驚いた様子を見せた。
「ど、どうしたのさ山藤君?」
「いや、とにかく、精神病棟内の事を解決するというのは難しい話だ。できる事は無いんだ」
「・・・・・・山藤君、なーんか隠してる?」
感の良い人だ。だが、ここでそれを話す理由は無い。
「そもそもさ、深夜に夜釣りとか言って精神病棟が見える位置でやってたりとか、Kトンネル付近についてやたら詳しかったりさ、前から怪しいと思ってたんだよね」
「いや、それは」
「言えない理由があるの?」
一条は俺をにらみつけながら、真実を求める探偵の目を向けてきていた。
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