第27話 真実と渦巻く怨念
「無理はしなくてもいい、だが、少しでもあの病棟で起こったことを聞かせてくれると助かるよ」
「はい」
四谷さんはそういった後、一つ深呼吸を置いて喋りはじめた。
「せ、せせ、精神病棟での話をしますね」
「桃花っ!?」
四谷さんの動揺した様子に花子さんはすかさず彼女の事を心配したが、四谷さんは気丈にふるまう様子を見せた。
「だ、大丈夫だから、本当に大丈夫だからお母さん」
「そ、そう」
「わ、私が入棟した日に行われたのは看護師による施設の案内でした。最初はどこにでもあるような普通の病院に見えましたが、常に誰かの叫び声が聞こえてきたような気がしていました。
そして、私が入ることになった病室は四人部屋で、その人達は年齢層の違う年上の女性が入っていました。
どの方も一見普通に見えましたが、彼女たちの体にはいくつもの生傷があって目は虚ろに見えました」
「・・・・・・それまでの間で、他に気になることはあったかな?」
「そうですね、廊下で私と同じ年代の人とすれ違った気がしました」
「同年代?」
「はい、男女ともに学生と思われる人たちでした。この後話すつもりでしたが、そのうちの一人は間違いなく私と同年代の高校生で、同じ境遇の人でした」
「なるほど、じゃあこのまま続けてもらっても大丈夫かな?」
「はい・・・・・・入院してからは、特にこれといった治療をされる事も無くただただ、運ばれてくる食事をとりながら定期的な診察があるという、無意味な生活を送っていたのですが、ある日の夜に同部屋の方が精神的に不安定になってしまったのか、ベッドの上で暴れはじめたんです。
どうしたらいいかわからなくて困惑していると、看護師の方が来て対応されてたんですが、しばらくすると暴れる患者さんを残してどこかに行ってしまったんです・・・・・・そしたら、その後病室に入ってきたのはとてつもなく大きな体をした般若の仮面をかぶった人がやってきたんです」
四谷さんの口から飛び出した般若の人の話に、思わずドキッとしていると、一条の親御さんをわずかに俺に視線を向けてきた。だが、すぐに四谷さんへと視線を戻した。
「その、般若の人というのは?」
「わかりません、ですがその人がやってくるとベッドで暴れている人に向かって鞭のようなものを振り回しながら暴行を加えはじめるんです」
「その光景を間違いなく見たんだね」
「はい、一度や二度ではありません、患者さんが騒がしくなると必ずそうなります」
「・・・・・・ひどいな、どうしてそんな事が」
「わかりません、ですが、繰り返しそのような行為が行われているのは間違いありません」
「君はその般若の人に何かされたりはしてないのかい?」
「はい、私には何も・・・・・・ただ、睡眠不足にはなりました」
「そうか、じゃあ他に気になった事は」
「あの、ここからが本当に話さなきゃいけないことだと思っているんですが」
四谷さんはここで紅茶を一口飲み、深呼吸した後、再び話し始めた。
「それは、先ほど言いかけた同年代の子の話です。私がたまたま仲良くなった子は同い年で近所の高校に通っていたそうなんですが、彼女は私と同じ境遇で入院することになったそうなんですが、曰く、精神病棟には数多くの学生がいるという話を聞いたんです」
「学生が?それも何人も?」
「はい、私自身が確認したわけではありませんが、彼女はそう言っていました。なんでも素行の悪い子が集められることも多くて、そういう子たちは特別棟につれていかれるという話も聞きました」
「それが事実なら大問題だ」
「で、でも聞いた話なので、本当かどうかは分からなくて・・・・・・でも、私の置かれている状況を考えた時に、似たような手口で学生を無理やり精神病棟に連れ込んでいてもおかしくないと思ったんです」
実際にあの場にいた人間の証言だと考えると、信じがたい話でもないかもしれない。それに、四谷さんの話が本当ならば、確かにそういった手口で学生を何かの目的で連れ込んでいる可能性も少なくはないだろう。
ただ、そうなるとこの一軒は想像しているよりも厄介で大掛かりな事件の糸口になっている可能性を大いに秘めているように思えた。
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