第26話 後悔と払えない恐怖心

 四谷さんの親御さんが来るという事を知らされたと同時に、一条家のインターフォンが鳴り響いた。

 その報せに福井さんが急いで玄関の方へと向かい、それに伴って一条の親御さんも席を離れた。


 リビングに残された俺は四谷さんの様子を眺めていると、一条が俺の事を見つめながら何かを訴えかけるかの様な表情をしていた。


「な、なんだどうした?」

「山藤君は今回の件をどうするべきだと思う?」


「その動機を見つけるには四谷さんの手伝いが必要だ。あの場所で一体何が起こっていたのか、そして女の霊というのは一体何のか・・・・・・すべては彼女次第だ」

「うん、それはそうかもしれないけど」

「少しづつでもいい、四谷さんには知ってる限りのことを話してもらうべきだ」


 俺の言葉に一条は頷いた。そして彼女の隣にいる四谷さんは俺を見つめてくると話しかけてきた。


「私、ちゃんとすべて話すから・・・・・・」

「そうか」


 そんなやり取りをしていると、リビングに一条の親御さんと福井さん、それから四谷さんの親御さんと思われる女性が現れた。そして、彼女は四谷さんのもとへと向かった。


「桃花っ」


 四谷さんの親御さんは、娘の名前を呼びながら四谷さんを抱きしめた。


 リビングの空気が落ち着いた所で、話は再び今回の事件について戻ることになった。四谷さんの親御さんは自らを「花子」と名乗り四谷さんの側に座った。


 そして、話の主導は再び一条の親御さんによってすすめられることになった。


「まず初めに、花子さんは娘さんを精神病棟に入れる事をどう考えておられたのですか?」

「当時の私は警察沙汰になる事を一番に恐れていました・・・・・・今では親失格の判断だったと悔いています」


「では、娘さんが精神病棟に入る必要があると言われたのは本当なんですか?」

「はい、理事長と名乗る方がそう言っていました。当時は娘も不安定な様子でしたし、繰り返される家出と奇抜な言動で警察の補導を受けたこともありましたから、その・・・・・・」


「では、その理事長による判断を受け入れてしまったというのは事実ですか?」

「はい・・・・・・」


 花子さんは今にも泣きだしそうな様子でうつむきながら、絞り出すような返事していた。あまりに悲痛な様子ではあるが、そうせざるを得ない状況が積み重なってしまっていた背景もあったのかもしれない。


「なるほど」

「今となっては本当に馬鹿なことをしてしまいました。娘の様子を見に移行と精神病棟へと向かってもなかなか会えず、娘につらい思いをさせてしまっているのではないかと強い後悔を抱いていました。

 ですが、今回このような形で娘に会えて本当に救われた思いです。ありがとうございます」


「礼を言われるようなことはしていません、むしろご迷惑をかけてしまっているかもしれません」

「そんな事はありません、娘に会えただけで私は本当にうれしいんです」


 花子さんはそう言って、涙を流しながら四谷さんの事を優しく抱きしめた。その様子に四谷さんもどこか気恥ずかしそうな表情をしながらも口を開いた。


「大丈夫だよお母さん、私はなんともないし何もひどいことはされてないよ」

「本当に良かった、ごめんなさい桃花」

「ううん、私の方こそごめん」


 二人は親子の絆を見せつけるかのように抱き合い、その様子をしばらく眺めた後、四谷さんが真剣な表情で再び口を開いた。


「あそこであった事、私が全部話します」

「大丈夫かい?」


 一条の親御さんは心配する様子を見せたが四谷さんはすぐに首を横に振った。


「大丈夫です、すべてを吐き出さないと、きっとこの先辛い思いをするだけですから」


 強い語気の四谷さんにわずかな安心感を覚えつつも、これから彼女によって語られる空白の真実に俺は身構えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る