第25話 違和感

 四谷さんの様子に隣に座る一条が心配そうに体を寄せた。しかし、四谷さんは相変わらず青白い顔をしていた。


「だ、大丈夫桃花ちゃん?」


 一条の呼びかけにようやく我を取り戻した様子の四谷さんはすぐさま俺たちに向かって頭を下げて謝罪の言葉を言ってきた。


「ご、ごめんなさい」

「いや、こちらこそ君に精神的な負担を与えたようですまないね」


「いえ、ただ・・・・・・」

「ただ、どうしたんだい?」

「私、やっぱりおかしいのかな?で、でも私はちゃんと話せてるから大丈夫だよね」


 四谷さんはすっかり様子がおかしくなっており、言動もどこか落ち着かない様子を見せていた。


「少し落ち着こうか、まろん、そっちのソファーで彼女を休ませてあげなさい」

「うん」


 そういうと、一条は四谷さんを連れてリビングにあるソファーとテレビがある方向へと向かった。

 お手伝いさんの福井さんはその様子を見て、机に置いてあるお茶や菓子を一条と四谷さんがいる方へと持って行った。


 どうやら、四谷さんにはかなりの精神的ダメージがあるように思えた。もしもあのまま話を続けていたら今回の騒動における真実にたどり着けそうな気もしたが、さすがにあの様子の人間を問い詰めるというのは気が引ける。


 そう思っていると一条の親御さんが静かな声で話しかけてきた。


「山藤君、少し小声で話そうか」

「え、はい、何ですか?」


「彼女の様子を見てどう思う?」

「不安定さを感じます、いつ爆発してもおかしくないほどに」


「実は、彼女の事は昨晩からこの家で面倒見ているんだが、数回ほど彼女の様子がおかしくなった」

「そうだったんですか」


「あぁ、基本的には福井さんや娘が面倒を見てくれたんだが、どうにも彼女は何かにおびえている様子なんだ」

「何かというのは?」

「わからない、ただ、彼女はしきりに女の霊という言葉をつぶやいていた」


「山藤君、女の霊というのに心当たりはあるかい?」

「以前、一条とKトンネルに行った際に遭遇した精神病棟の患者も同じ言葉を言っていました」


「それは、私が娘を迎えに行った時の話かい?」

「はい、しきりにという言葉を発していましたね」


「それ以外には何かを知っている事は?」

「・・・・・・」


「何でもいいんだ」

「ですが、もうこれ以上この件に首を突っ込むのはやめた方がいいと思うんですが」


「だめだ、娘に危害が及びかねない」

「それはそうですけど、警察に任せるのが一番かと」

「奴らは事件が起こってからじゃないと動かない、自分の身は自分で守らないといけないんだっ」


 ・・・・・・なんだか、どこかで聞いたようなセリフだ。そう思うと警察という仕事もなかなか大変だな。

 

「まぁでも、今回の件で気になる事と言えば、精神病棟の理事長の件ですね。そもそもの原因は四谷さんにあるとはいえ、そのような行為が行われているという事は、一条もその毒牙にやられる一歩手前だったのかもしれないという事です」

「あぁ、本当に許されざる行為だ。本来なら現場に行って事実確認をしたいところだが、証拠もないうえにこっちは不利な状況ともいえる」


「まぁ、不法侵入してほぼ誘拐ですもんね」

「あぁ」


 冷静にこちらの状況を分析していると、圧倒的に俺たちの方が悪いやつらに思える。ただ、四谷さんという存在がこの状況をひっくり返してくれるかもしれないのが望みだったりもする。


「あの、やっぱり四谷さんが唯一の望みなんじゃないですかね?」

「そうだ、だから彼女の存在を手放すわけにはいかない。それから、彼女の親御さんにも連絡を取っている。もうすぐ来てくれるはずだ」


「え、四谷さんの親御さんも来られるんですか?」

「あぁ」


 なんだか大事になってきた・・・・・・いや、大事なんだけど。ただ、親御さんと連絡が取れて家にまで来てくれるというのなら、それはそれで物事が良い方向に向かっているように思えた。

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