第24話 権威と洗脳

「理事長と名乗るその方は私の不法侵入を重く受け止め、即座に警備員を呼ぶと、そのまま精神病棟の応接室へと連れて行かれました。

 そこで私は、理事長と名乗る男の人から両親を呼ぶように言われたんです」

「その時、警察への連絡はしたのかい?」


「いえ、理事長と名乗る人がまずは両親への連絡といったので、私は母親に連絡して精神病棟まで来てもらったんです。

 でも、そこで理事長と名乗る男の人が突然、私に精神疾患があると言い始めたんです」

「・・・・・・どうしてそんな事?」


「わかりません、突然の事でしたから。もちろん、私にも非はありましたし馬鹿な事をしたと思っています。ですが、理事長と名乗る人はありもしない事をでっち上げて母親に言い、私の事を陥れようとしてきたんです」

「つまり、不法侵入以外の身に覚えのない事まで言ってきたと?」


「はい、そして理事長と名乗る人はついに警察という言葉を出しました。それは、まるで警察を呼ばれたくなければこちら言う通りにしろ、とでも言うような口ぶりでした」

「それが本当なら大問題だが、その音声を録っていたりはしないかな?」


「すみません、そこまで気が回らなくて」

「そうか、いや無理もない、それでそのあとはどうなったんだい?」


「私を精神病棟で入院する必要があると、理事長の男は言い始めたんです」

「馬鹿な、そんな言い分がまかり通るわけがない」


「はい、でも普段から突飛な行動で母親を困らせていましたから、自業自得なのかもしれません。でもっ、それでもこんな仕打ちを受けるなんて思いもしませんでした」


 ・・・・・・これまでの話、そして彼女の様子から感じることは、四谷さんが精神的に異常があるようには思えなかったという事だ。

 そして、彼女の口から出てくる言葉の数々はとてもおぞましいものであり、あの精神病棟の異常性がより際立っているように思えた。


 ただ、これらすべての話が彼女の妄想だという可能性も無いわけじゃない、なぜなら俺は彼女の事を詳しく知らないからだ。

 つまり、ここで確認しなければならないのは四谷さんという人間が本来こういう人間性だということを確認しなければならない。


「なぁ、一条ちょっといいか?」

「何?」


「俺の目から見て、四谷さんは何ら異常はないように見えるが、一条から見て彼女は以前と変わりはないのか?」

「え、うん変わらないよ、前からこんな感じだと思うけど、どうしてそんな事を聞くの?」


「・・・・・・いや、気を悪くしないでほしいんだが、四谷さんが本当に正気なのかという疑問はあると思ってさ」

「私は正気だよっ」


 四谷さんはそういいながらものすごい形相で俺をにらみつけてきた。その迫力ある様子にリビングは静まり返った。すると、四谷さんはどこか気まずそうに顔をゆがめると、控えめに謝罪の言葉をつぶやき始めた。


「ご、ごめんなさいごめんなさい」

「あ、俺の方こそすまない」


 空気の読めない発言をしたが、そんな中で一条の親御さんが俺の方に手を置いてきた。


「いや、山藤君の言い分もわかる。なにせ君は失踪という扱いで精神病棟にいたわけだ。まともな精神状態という方が難しい環境だったはずだ」

「そんなっ、私の事を信用してくれないんですか?」


「違う、それを確かめたいだけだ。まろん、彼女は本当に依然と変わりはないのか?」

「う、うん変わらないよ、間違いないって」


 一条の言葉に、四谷さんはわずかにほっとした様子を見せた。そして一条も真剣な表情を見せており、彼女は四谷さんの肩に手を置いて慰めるように撫でていた。


「そうか、では精神病棟ではどのような生活を送っていたのかを聞かせてもらえるかな?」


 一条の親御さんがそう口にした。すると、四谷さんは茫然とした様子を見せ、その瞳はうつろに一点を見つめ始めた。

 そして、両手で頭を抱えると、歯と歯がカチカチとぶつかる音を立てながら震える様子を見せ始めた。


 その姿は、先ほどまでの元気そうな様子とは違う異常性の感じるものに見えた。

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