第23話 失踪の真実
リビングにたどり着くと、そこには一条の姿とその友人が椅子に座って待っていた。一条は清楚な私服に身を包み、いかにもお嬢様って感じで育ちのよさそうな雰囲気を出しており、その表情は笑顔で俺にむかって手を振ってきていた。
なんだあれは、昨日あれだけの事があったっていうのにめちゃくちゃ元気な奴だな。
まぁ、そんなことはさて置き、隣にいる一条の友人はどこかうつむきがちに俺たちに向かって頭を下げてきており、その様子と顔色に彼女の精神状態はそこまで悪いようには見えなかった。
そうして、俺は一条の親御さんに促されるままリビングテーブルの椅子に座ると、お手伝いさんの福井さんが話しかけてきた。
「山藤さん、飲み物は何がいいですか?」
「え、あぁ、いただけるのなら何でも」
「あっ、山藤君はオレンジジュースが好きですよ福井さん」
「あらそうですか、ではご用意いたしますね、一条さんはどうされますか?」
「私はコーヒーをお願いします」
いかにも大人な注文に対して、俺のなんと幼稚な事よ。いや、それよりもなんで俺は強制的にオレンジジュースなんだよ。なんて事を思いながら一条を見つめていると、彼女は口を開いた。
「山藤君、こないだ喫茶店でオレンジジュース飲んでたでしょ、だから好きなのかなって」
「いや、まぁ好きだけど」
「うん、じゃあいいよね」
一条のなりの気づかいなのだろうか。なんて事を思っていると、隣に座る一条の親御さんが口を開いた。
「さて、君達に話さなければならないことが山積みなのだが、まず第一に昨晩の出来事についてだ。
現時点で警察からの連絡もなければ訪問もないが、今後警察からの聴取を受ける可能性は否定できない。だから今のうちにできる限りの情報を共有しておきたいと思っている、いいかな?」
一条の親御さんの言葉にその場の全員は、静かにうなづいた。
「よし、まずは君から話を聞こうと思うんだがいいかな?」
そういうと一条の親御さんは一条の友達に目を向けた。
「は、はい、わかりました」
「あ、一応山藤君に紹介しとくね、彼女は四谷
一条の紹介を受けた四谷さんは俺の事をわずかに見た後頭を下げてきた。
「四谷です、昨日はお世話になりました」
「あ、いえいえ、俺は山藤ですどうも」
適当に挨拶を交わした後、本題である四谷さんの話へと移行した。会話は基本的に四谷さんと一条の親御さんによってすすめられ、俺と一条はわずかに口をはさむ程度だった。
「それで、私が失踪扱いになっていた話なんですが、すべてはあの精神病棟によって仕組まれた事なんです」
「仕組まれたというのは、どういう事かな?」
「私はいたって普通なんです・・・・・・いや、心霊スポットばかり行くような女が普通じゃないのは分かってるんですけど、物事の分別はつくし理性だってある、他人に暴力をふるったり自傷行為をしたりもしてません」
四谷さんは必死に訴えかけながら、まるで自らの潔白を証明するかのように袖をまくって手首を見せてきたり、服をまくって腹部や生足を見せてこようとしていた。
その様子に俺は思わず目をそらし、同時に一条の親御さんも目をそらしていた。
確かに、一瞬見えた限りでは傷のない綺麗な肌をしていたが、ここまでの事をされてしまうと逆に心配になってしまう。
「ちょ、ちょっと四谷ちゃん女の子なんだから」
「あっ・・・・・・そうか」
一条の制止によって冷静さを取り戻した様子の四谷さんは、どうやら見た目より豪快な性格をしているようだ。そして、話は再び本題へと戻った。
「と、とにかく私は普通だったんです。でも、ある日精神病棟の敷地内に不法侵入したときに一人の人と出会ってしまったんです」
「その人とは?」
「精神病棟の理事長を名乗る人でした」
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