第22話 一条家
当初の目的を成し遂げることが出来た達成感と、とんでもないことをしてしまったという罪悪感が入り乱れる心境で、一条の親御さんが運転する車内はどこか重苦しい空気が漂っていた。
しかも、誰一人として言葉を発することなく、俺もどこか口をはさむことに躊躇していると、一条の親御さんが声を上げた。
「山藤君、家まで送るから道案内してくれるかな?」
「え、えぇ勿論です、ありがとうございます」
「いいんだ」
そうして、俺は一条の親御さんに道案内をして家まで送ってもらった。我が家にたどり着き、感謝の言葉を述べた後に車から降りようとしていると一条が話しかけてきた。
「山藤君っ」
「ん、なんだ?」
「なんか、いろいろごめんね」
「別にいいよ無事だったんだし、よかったよ」
「う、うん」
「また学校でな」
そうして、俺は一条に別れを告げて車を降りると、運転席から一条の親御さんが下りてきて俺に駆け寄ってきた。
「山藤君、明日は何か予定があるかい?」
「いえ、とくにはないですけど、山に置きっぱなしの自転車でも取りに行くと思います」
「あっ・・・・・・」
俺の言葉に一条の親御さんは申し訳なさそうな声を上げた。
「大丈夫ですよ、あの状況じゃどうしようもありませんでしたから」
「すまない」
「いえ、それよりもどうして明日の予定を聞くんですか?」
「君には迷惑をかけたからね、ぜひお礼をしたいと思ってね」
「お礼なんてそんな」
「・・・・・・それに、今夜の件についても話したいことがある」
まぁ本題はそっちだろうし、俺もいざとなった時のために情報共有しておく必要もあるかもしれないだろう。
「そうですか、わかりました明日は予定を開けておきます」
「そうか、なら明日の朝の10時にここに迎えに来てもいいかな?」
「はい、お願いします」
そうして、俺は一条の親御さんと別れて自宅へと戻った。
翌日、俺は思いのほか快眠して朝を迎え、朝食を食べた後に自宅の玄関で待っていると、黒塗りの車が俺の目の前で停車した。助手席側の窓が下りると、運転席には一条の親御さんの姿があった。
「さぁ乗って」
俺は言われるがまま助手席に乗り込むと、一条の親御さんからシートベルトを締めるように促された。そして、そのまま車が発進すると、一条の親御さんが口を開いた。
「昨晩、娘と娘の友達は保護した状態で無事に朝を迎えたよ」
「そうですか」
「あぁ、娘もその友達も落ち着いている様子だし、精神状態も何らおかしくないように思えた」
「それはなによりです」
「ところで、昨晩は眠れたかい?」
「いえ、意外と快眠でしたよ。多分あれだけの事があったのでそうとう疲れたんだと思います」
「そうか、私もだよ」
どうやら、お互いに図太い性格であることは間違いなさそうだ。この様子だと一条もぐっすりと眠ったんじゃないだろうか?
そんなことを思いながら一条家にたどり着くまでの間、他愛ない雑談で時間をつぶしていると、一条の家へとたどり着いた。
一条家は、いわゆる高級住宅街に建つ立派な一軒家であり、周辺を見渡しても高級車が立ち並ぶ閑静な住宅街だった。
そんな様子にどこか緊張していると、車をガレージに収めた一条の親御さんがやってきた。
「待たせたね、さぁどうぞ」
そうして、俺は一条家へと招かれると、玄関には一人の女性が出迎えてくれた。素朴な印象で柔らかい笑顔が特徴的な中年女性。これが、一条の母親なのだろうかと思っていると彼女は深々と頭を下げてきた。
「おかえりなさい一条さん、それにお客さんもようこそ」
どこかよそよそしい様子に、一条の親御さんは慣れた様子で中年女性を会話を始めた。
「あぁ福井さん、昨日はすみませんでした」
「いえいえ、御用とあればいつでもお呼びください」
「あ、こちらお手伝いの福井さん。そして彼は山藤君です」
「初めまして福井です、山藤さん」
そうして福井さんと呼ばれるお手伝いさんは再び頭を下げてきた。そんな様子に俺もすぐさま頭を下げた。
「あっ、いえ、こちらこそ初めまして山藤です」
「さぁ、どうぞリビングでまろんさんとお友達がお待ちです」
「えぇ」
なんだか、慣れない雰囲気に緊張しながら、俺は一条家へと足を踏み入れた。
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