第21話 脱出と女の霊

 目先の問題は解決したのだが、本当の危機は後方から追いかけてきているであろう警備員と般若の人だ。

 一人は分かるがもう一方は理解できない存在であり、気になるところでもあるが、ここで捕まったらすべてが終わり。

 いや、立場的に言えば主に一条の親御さんが完全に終了してしまう案件であり、女性とはいえ一人の人間を背負う俺の体力だっていつまで持つかはわからない。


 こんな事なら一条の親御さんに背負ってもらうべきだったか・・・・・・なんて事を思いながら精神病棟内を走り回っていると、ちょうど非常口の蛍光看板が目に入った。

 俺たちはその光に向かって走っていると、一条の親御さんが一足先にたどり着いて、非常口を開けて誘導してくれた。


「早くしなさいっ」


 しかも、しっかり声を上げて俺たちを鼓舞してくれるという、なかなか熱血漢なところを見せてくれた。

 それはそれでいいんだけど、そうなるとどこか演技臭いホラー映画感が出て、この後一条の親御さんが俺たちを逃がすために般若の人と戦ってくれそうな雰囲気を醸し出していた。


 そんなことを願いながら俺たちは非常口を抜け、外に出ると、俺たちはすぐに鉄製の非常階段を駆け下りた。

 その勢いに、自分の足がどうなってるかわからない程の速度を出しているように思えたが、自然と体が動いている感覚にすさまじい高揚感を覚えた。

 しかし、階段を下りながらも上方では警備員の男と思われる声が響き渡っており、確実に俺たちを追い駆けてきていることが分かった。


 だが、そうしているうちにも俺は階段を下り終え、その達成感からわずかに後方確認をしてみると、薄暗い中で階段を駆け降りながら追いかけてくる警備員がいたが、般若の人は非常階段の高い位置から、俺達の様子を見守るかのように眺める姿があり、それはとてつもなく奇妙に思えた。


 そして、それと同時にさっきから俺の耳元でささやく一条の友達の言葉が明瞭に聞こえてきた。


「・・・・・・女の霊」


 その言葉に聞き覚えがある俺は、もしかするとこの一連の事件の中心は「女の霊」というものにあるのかもしれないと思った。

 そして、その言葉と一条親子と共に俺たちは精神病棟を後にしてそのまま放置してある車のもとへと向かった。


 運のよいことに一条の親御さんの車は健在であり近くに人の姿もなかった。


 ここでどんでん返しの展開が無いことを願いながら、ついに一条の親御さんの車に乗り込めたところまでは良かったのだが、その直後、一条の親御さんが大きな声を上げた。


「シートベルトを締めて身の安全をとりなさいっ!!」


 最初にあった印象からは想像できないほどの熱のこもった言葉の数々に俺は一条の友達へとシートベルトを締め、自分にも施した。


「締めました」

「よしっ、覚悟しなさい三人とも」

「「え?」」

 

 そういうと、一条の親御さんはギリギリという音が聞こえるほどに強くステアリングを握りしめ、レバーを動かしたかと思うと車は一気にバックへと移動し始めた。


 定期的にブレーキを挟んで後方へと進む車は、まるでジェットコースターにでも乗っている様な気分であり、命の危険すら感じる中、一条の親御さんは何も言わずにただただ車を後方へと動かしていた。


 すると、やがてKトンネル付近の道路へとたどり着き。そこで、車は猛烈な駆動音を響かせながら方向転換すると、そのままKトンネルに侵入し、すさまじいスピードでトンネルを通り抜けた。


 そこでようやく、わずかな安心感を抱いた俺は、車の窓ガラスから後方を確認していると、Kトンネルには一人の人の姿が見えた。

 それが誰なのかはわからなかったが、隣に座っている一条も同様にその姿を確認している様子だった。


「山藤君見た?」

「人か?」


「うん」

「・・・・・・見た」

「町がいなく心霊写真の人だったよ」


 やはりどこかおかしなトンネル、そして精神病棟での出会った行方不明の一条の友達。どうにもただ事では済まない方向へと向かう出来事の数々にこのままでは終わらない予感がしていた。

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