第19話 巡り合いの交差点

 よからぬ事態に遭遇した後、俺たちは何とかして一条の事を見つけられないかと院内をくまなく捜索していたが、手掛かりの生徒手帳以外に一条の痕跡は見当たらなかった。


 徐々に焦りが増す中で、俺はただひたすらに一条の事を思い浮かべながら探していると、ふと、薄暗い院内の廊下に人の姿が二人見えた。

 それは、まるで床に倒れこむ誰かを介抱しているかのような状況であり、俺たちは物陰に隠れながらその様子を見た。


 一人は患者衣を身に着け、もう一人は制服を着ていた。そして制服の人が一条だと分かったとたん、一条の親御さんが物陰から飛び出して行ってしまった。

 つくづくこの人は行動力の化け物だ。一条の親なだけある。そう思いながら俺も彼の後を追っていくと、一条が女性の患者を抱きかかえながら俺たちの事を見つけた。


「えっ、お父さん?」

「まったく困ったものだ、さぁ帰るぞ」


「ちょっと待って、それはできない」

「どうしてだ・・・・・・いや、まてこれはどういう事だ?」


 どこか様子のおかしい状況の中、俺は一条の腕の中で苦悶の表情を浮かべる女性の患者が気になった。

 見覚えのない顔、だが、どこか幼投げな顔立ちをしている彼女は何かをぼそぼそとつぶやいていたが、はっきりとは聞こえなかった。


「え、彼女がどうかしたんですか?」


 俺の質問に対して一条の親御さんは、驚いた様子を見せながら静かに口を開いた。


「娘の友達だ・・・・・・」

「え、まさかそれって」


「あぁ、行方不明になっていたと聞いていたが、ここにいたとは」

「いやでも、どうして彼女がこんな所に?」


 困惑した様子の一条の親御さんをよそに俺は気になっている事を一条に聞いてみる事にした。


「なぁ一条、その彼女は行方不明になったっていうお前の友達なのか?」

「うん、間違いないよ、そして彼女はこんなところにいるべきじゃないっ」


 一条は強い口調でそう言い切った。


「ねぇお父さん、お願い彼女を助けてあげて」

「待て、助けるといっても私にはどうにもできない、恰好からして彼女はここに入院しているのだろう?行方不明というのもこういう理由があって公表できなかったのかもしれないだけじゃないのか?」


「違うよっ、今すぐ彼女をここから出してあげないとおかしくなっちゃうっ」

「・・・・・・何を言っている」


 一条の言い分としては彼女はここにいるとおかしくなる。一方で一条の親御さんからしたらおかしくなったから彼女はここにいるという解釈をしているのだろう。

 

 まぁ、どちらの言い分もわかるが、なんにせよ俺は一条の案に賛成だ。


「あの連れ出してもいいんじゃないですか?」

「おい、何を言うんだ君は、私を誘拐犯にするつもりか?」


「ですが、もしも一条の言う通り彼女が正常ならば、きちんとした証言が取れるはずです」

「しかしだな」


「俺が責任を取ります、未成年で同級生の凶行となれば情状酌量の余地ありってやつですよ」

「わ、私も責任を取る」


 一条も俺に便乗する形でそういうと、一条の親御さんは困った様子で頭を抱え始めた。だが、この状況を理解してくれたのか半ば投げやりな態度で了承してくれた。


「わかった、とにかくここを出る。後の事はその時考えるぞ」


 そうして、俺はすぐに一条が抱えている彼女を背負い、精神病棟から出ていくことにした。

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