第18話 勘違いと違和感
廊下を駆ける一条の親御さんの後を追いかけていると、彼は曲がり角を曲がったとたん、すぐに引き返してきた。そして壁に体をくっつけながら息を整えていた。
そんな様子に俺は近づくと、彼は人差し指を立てて俺に向かって静かにするように促してきた。そして、俺はささやき声で状況を聞き出す事にした。
「あの、何かあったんですか?」
「職員が病室を出入りしている、どうやら患者が騒いでいるらしい」
確かに、彼の言う通り周囲には患者と思われる人の叫び声が響いており、それをなだめるかのように職員の声が聞こえてきていた。
「一条じゃないみたいですね」
「おそらくそうだろう、だが一応確認しに行く」
「えっ、ちょっと待ってくださいっ」
俺はすぐさま一条の親御さんの腕をつかむと、彼は不満げな様子を見せた。
「どうして止めるんだい、確認に行かないと」
「いやいや、職員が戻ってくるかもしれないんですよ」
「だから、その前に確認をだね」
「いや、それはあまりにも大胆すぎますって」
「しかし」
そうして、しばらく一条の親御さんとひと悶着していると、ふと、廊下中に甲高い金属音が響き渡った。
その音に俺たちはすぐさま口論をやめて周囲に意識を向けていると、ちょうど騒がしい病室の方向から誰かが音を立てながら歩いてきているのが見えた。
それは、遠くから見ても大柄な人陰であり、一条の親御さんとともに息をひそめてその人影を確かめようとしていると、その全貌があらわになった。
なんと、その大柄な人は顔に般若の面をかけており、手には金属製の棒のようなものを持っていた。まるでハロウィンの仮装といっても過言ではないいでたち、だが、時期も違えばここは精神病棟だ。
そうなると、ホラー映画やゲームといったものの登場人物に見えなくもないその人は、カランカランと金属製の棒を壁や床に打ち付けながら歩いており、その人は患者の叫び声が聞こえる病室の前で立ち止まった。
そして、般若を付けたその人はゆっくりと病室へと入っていくと、病室内からけたたましい悲鳴が聞こえてきた。
しかし、そんな声はやがて悲鳴からしっかりとした言葉に変わり、まるで助けを乞うかの様な「いやだ」とか「やめて」という声がわずかに聞こえ始めていた。
どこか、ような状況の中、俺と一条の親御さんは気づくとその異常な病室の前へときており、俺たちは互いに顔を見合わせた後、病室の中に顔をのぞかせた。
すると、そこで繰り広げられていたのは凄惨な光景であり、到底言葉で表せるようなものではなかった。
何より、なぜこの精神病棟でこのようなことが行われているのか、どうしてこんな状況に出くわしているのか。
俺たちは本来の目的である一条の事を忘れてしまったかのようにその光景に目を奪われていたのだが、ふと、我に返った俺は一条の親御さんの腕を引いて病室を後にした。
なるだけ病室から離れた後、一条の親御さんも正気を取り戻したかのように我に返った様子でため息を吐いた。
「・・・・・・まるで夢でも見ているかのようだ」
「そうですね、ですが、今は一条の事をどうにかしないと」
「あぁもちろんだ」
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