第17話 侵入

精神病棟は高い塀に囲まれており、塀の上部には有刺鉄線が施された厳重なものとなっている。

 それくらいの事をしなければならない理由が潜む精神病棟で、裏門は何故か比較的警備が薄くなっている。

 高い塀に埋め込まれるかのようにある小さな鉄製の扉は誰の監視にもさらされることのない無防備な出入り口となっていた。

 

 普通ならば監視カメラが設置されていてもおかしくはない状況だが、それらしきものはなくどうぞ入ってくださいと言わんばかりに鉄扉の施錠はされていなかった。


「こっちです、ここからなら侵入できます」

「君はどうしてこんな事を知ってるんだい」


「その話はあとで、ひとまず中に入りましょう」

「あ、あぁ」


「・・・・・・あ、でもその前に」

「なんだい?」


「本当に中に入りますか?」

「ここまで来ておいて、それを言うのかい?」


「いや、俺は高校生ですけど、あなたは社会人ですのでそれ相応の制裁を受ける可能性があると思いまして」

「それは覚悟の上だ、それに、もしも娘がここにいるとなれば、その制裁を受けるのはこの施設だ」

「そうですか、では行きましょう」


 しかし、いくら人がいないとはいえ誰かと鉢合わせをしないわけではない。中には警備員だっているし、夜勤の従業員だっている。

 

 何の手掛かりもなく無謀にも侵入を試みるのはリスクが大きすぎるのだが、それでも直観的な導きに誘われるかの様に俺たちは裏門の鉄扉を開いた。


 周囲にはだれもおらず、一安心していると、ふと足元に何かが落ちていることに気づいた。

 その何かにライトを照らしてみると、そこには手帳のようなものが落ちていた。


 すると、一条の親御さんがそれにいち早く反応して拾い上げた。


「やはりそうか」

「あの、何ですかそれ」


「娘の生徒手帳だ」

「まさか・・・・・・本当ですか?」

「あぁ」


 一条の親御さんは俺に一条の生徒手帳を見せてきた。それは間違いなく本当の生徒手帳であり、それがここにあるということは、考えうる最悪の事態になっている可能性があることを示唆しているようだった。


「一刻も早く娘を見つけなければ」

「はい」


 ここにきて決定的な証拠が見つかったことにより、異様なまでの緊張感に包まれた。そして、一条の親御さんは精神病棟の施設内へと駆け足で向い、俺もそのあとを追った。

 しかし、精神病棟の裏口は施錠されており、一条の親御さんは悔しそうに声を漏らした。


「くそ、そう簡単にはいかないか」

「非常口から入りましょう、確かすぐ近くにありますから、そこから入れますよ」


「本当に君は何者なんだ?」

「ただの高校生ですよ・・・・・・」


 なんて、人生で一度は口にしてみたかったセリフを吐いた俺は内心興奮していた。


 だが、状況的には浮かれている場合でもなく、俺はいち早く一条の親御さんを非常口へと案内して、そこから施設内へと侵入した。

 施設内への侵入はすでに消灯時間を過ぎており、薄暗い廊下が続いていた。そんな、不気味な雰囲気の中で手当たり次第に施設内を探索していると、ふと、叫び声が聞こえてきた。


 それは甲高く、女性と思える叫び声であり、少なからず一条のものではないかと錯覚した。

 そして、一条の親御さんはその叫び声に敏感に反応すると、その声がした方向へとすぐさま駆け出した。

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