第16話 精神病棟
一条の親御さんと精神病棟へと向かう事になった俺は、誘っておきながらどこか気まずい空気に耐え切れなくなっていた。だが、その空気を破ったのは一条の親御さんだった。
「山藤君、本当に娘はこの先にいるのだろうか?」
「いない方が助かりますけど、いるってなると状況としては最悪ですね」
「それはどういう意味かな?」
「・・・・・・最近、学生の失踪事件が問題になっているのはご存知ですか?」
「あぁもちろん知っている」
「その諸悪の根源がこの精神病棟だといったら信じますか?」
「まさか、どうして失踪事件がここと繋がるというんだい?」
「失踪事件にはある共通点があるんです」
「共通点?」
「はい、一つは若年層である学生、そしてもう一つは心霊スポット巡りです」
「それは、大多数の若者に当てはまるように思えるのだが?」
「心霊スポット巡りといっても、よくある集団の肝試しではなく、単独による心霊スポットへの執着行動です。心当たりがあると思います」
「確かに、娘の様子は日に日におかしくなっている様子だったが、あの子は至って普通の精神状態のはずだ」
「・・・・・・本当にそう思いますか?」
俺の疑問に対して一条の親御さんは足を止めた。そして、相変わらず異様なほどに静かすぎる空気にいやでも神経が研ぎ澄まされた。
そして、この道の先にある精神病棟の方向から寒気がする風が吹いてきているように思えた。
「あの子は、いや、そんなはずはない・・・・・・」
「もしも一条が正常だったとして、じゃあどうして一条の事を家に閉じ込めたんですか?」
「閉じ込めるなんて、何も知らない君にそんなことを言われる筋合いはないっ」
一条の親御さんは少し語気を荒げながらそう言った。その迫力は思わず後ずさってしまうほどのものであり、よどんだ空気が少し張り詰めたような気がした。
「あ、えっと、俺はただ一条からそう聞いたまでです」
「それは、あの子が私の言うことを聞かず何度も夜中に家を出ていくからだ」
「でも、その行先はKトンネルだったんじゃないですか?」
「・・・・・・そうだ、だが、だからと言ってあの子が精神に異常をきたしているなど、ありえない」
「少し話がそれました・・・・・・つまり、それらの要因に当てはまる対象が失踪という名目でこれから向かう精神病棟に収容されている可能性があるってことです」
「まさか、そんなことがまかり通っているというのか?」
「ある情報筋では、監視対象になっている様子です」
「なら、こんなところで立ち話をしている暇はない」
そうして、一条の親御さんは足早に山道を駆け上がり始めた。その様子に俺も彼の後を追いかけていると、やがて精神病棟の敷地内へとたどり着いた。
だが、俺はその手前で一条の親御さんに声をかけた。
「待ってくださいっ」
「どうした、何か問題でも?」
「正面からは入れません、俺についていてください」
「・・・・・・ん?」
俺は精神病棟の正面玄関の門を横目に藪の中に足を踏み入れ、一条の親御さんを先導した。
「こっち、ついてきてください」
「何をやっている、目的地はもうすぐそこじゃないか」
「正面には二人の警備員がいますから簡単に入る事はできません、とにかくついてきてください」
そうして、俺は一条の親御さんとともに藪の中をかき分けながら進むことしばらく、精神病棟の裏門へとやってきた。
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